駆け抜ける森 見上げた空

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2017-01-01から1年間の記事一覧

Kobo Trail 編 ⑧エイドから灼熱の林道へ

武士ヶ峰のエイドに着くと、まず、小山の手前にリタイア予定者がいることを伝えた。 スタッフの方が、お疲れ様、ありがとうございますと言って地元の特産品らしい素麺を差し出した。

Kobo Trail 編 ⑦壁を越えろ

一人抜き、また、一人抜いた。 道は一度大きく下ってから天狗倉山への登りに差し掛かる。 そうしているうちに、あることに気がついた。 足の着き方さえ間違わなければ、それ程痛くない。 もちろん、間違えれば激痛が走るが。

Kobo Trail 編 ⑥揺れ動く想い

ふうっ。 大きく息をついてから、また歩き出す。 とにかく、目の前の一つひとつをクリアしていこう。 何としてでも、ゴールまでたどり着かなければ。 先行する選手を追って、目の前の直登をよじ登る。 時には斜面に生えている草を掴んで、一歩、一歩、身体を…

Kobo Trail 編 ⑤行くか、やめるか

ふうっ、と息をついて座り込む。 「お疲れさまでした。大丈夫ですか?」 スタッフの方が、これですね、と、私のスマホと名物の柿の葉寿司を手渡してくれた。 よかった。 1つ、心のつかえが取れた。 時計を見ると、ちょうど8時。 一体、どれだけ飛ばすとこ…

Kobo Trail 編 ④応急処置

左の足首に痛みを感じる。 試しに、左足で地面を押してみる。 …っ! 激痛が身体を駆け抜ける。 すぐには動けそうもないので、とりあえずトレイル脇の茂みに、ズリズリと身体を移して道を空ける。

Kobo Trail 編 ③転倒

コースは再びトレイルに戻る。 今度は急登だ。 最初は階段だったが、次第に大きな岩の続く山道へと変わる。 この四寸岩山へと続く険しいトレイルでは、スピードを落とさないように大股で、一歩ごとに両手で膝を押しながら岩の段差を登る。 その段差が一息つ…

Kobo Trail 編 ②快晴の朝

レース前日、ブリーフィング(競技上の注意点及びコースの最新情報説明)に続き、選手は本堂に集められた。続いて大勢の僧侶たちも本道に入り、そしておもむろに護魔焚きの祈祷が行われた。 読み上げられていく数々の真言に続いて祈祷の内容が読み上げられる。…

Kobo Trail 編 ①弘法大師の道

前夜の予報からは打って変わり、空には青空が広がっていた。 山の中で迎える朝は、まさに凛とした少し張り詰めたような清々しい空気に包まれ、これから山に向かう選手たちの気持ちを更に引き締めるようだった。 スタートとなる境内には、これより50kmを越え…

「少年時代」⑤青空に抱かれて~背面飛び~

彼と過ごしたのは、子供が増えて教室が足りなくなり、町の予算が間に合わないために本設として使われていたプレハブの校舎だった。気温などは教室としての基準を満たしていたらしいが、実際には、輻射熱で夏は暑く、熱放射で冬は寒かった。

「少年時代」④翔べ、グライダー

さあ、君の番だよ、というように彼は正面から見ている。 彼がやって見せたように、後ろの空間に身を任せてみた。

「少年時代」③鉄棒の大技

砂場の側には鉄棒や雲梯があった。どちらも最初はぶら下がっている事さえ出来なかったが、どちらも何かのきっかけで楽しくなった。それこそ、身体の使い方のイメージが閃いたのだろう。それからはクラスの中でも得意な方に入った。

「少年時代」②慰霊塔と砂遊び

新体育館の隣には、取り壊しや移設を免れた慰霊塔があった。 その慰霊塔は、大きな石を積んだような小山の上にあって、周囲よりも少し高いところに建てられていた。塔の周りは大きな樹木に囲まれていて、その一郭だけは元々沼地だった校庭とはまた違う世界を…

「少年時代」①校庭の四季と体育館

子供の頃はというと、色々な事がすべて新鮮で、すべてが興味の対象だった。すべての事が色鮮やかに飛び込んできて、それらは未だに記憶のどこかに残っている。時間の経過もゆっくりで、あの僅か5分の休み時間にも、よくまあ遊びまくったものだと思う。

「家路」③受験勉強と記憶の方法

ふと脇を見ると、高校生だろうか、参考書のようなものを広げて試験勉強をしている。 試験勉強といえば暗記だが、私は暗記をすることがとても苦手だ。しかし、人に言わせると、私は色々なことをよく覚えているという。

「家路」②優先席と専用車両

電車には優先席というのがある。もちろん、御老人や妊婦さん、身体の不自由な方のために用意された席だ。優先席の前に立つと、大抵そこには「携帯電話の電源を切る」ことが書かれている。しかし、多くの人は平然と携帯電話を操作している。

「家路」①夜のホームにて

今日もまた残業で帰りが遅くなった。一人駅のホームに立ち電車を待つ。この時間になっても都心では多くの人が行き交う。それでも、ラッシュの時間と比べれば圧倒的に少ないのだが、いつの時代に何を考えて作られたのかと思うくらいに人の数に比べて狭いホー…

「まちづくり」④再開発の現場で

そんなことを思いながら歩いていると、広い敷地の建物を壊し、新しく再開発を始めている区画に出た。この辺りは、ドミノ式の処以外にもあちこちでビルの建て直しや再開発が行われている。面白いもので、建物は一端取り壊されると、元々そこに何があったのか…

「まちづくり」③古いものと新しいものと

古いものと新しいものが混在すると、何故か日本ではそれぞれの存在が個性を主張していて巧く溶け合っていない印象がある。 これに対してヨーロッパでは見事に溶け合ったような町並みが出来上がっている例が多い。少なくともそう感じる。

「まちづくり」②日本橋川のほとりで

そんな、どうでも良いようなことを考えながら歩いていると、日本橋川のほとりにある、ちょっとした広場に出る。

「まちづくり」①雨上がりの街

取り敢えず、午前中の仕事が一区切りついたので、外に出ることにした。私は、出来るだけこの閉鎖的空間から逃れたいので、何かに理由をつけて外に出るようにしている。といっても、そうそう理由なんて無いのだけれど。

「みゃう」⑮番外編 雨の日

「みゃう、ただいま」 部屋に戻ると、いつもなら玄関までお迎えに来るのだが、今日はいない。 「みゃう?」 中に入り、部屋の中を見渡してみた。 …いた。 みゃうは、掃き出しの窓の下で、窓を伝う雨の滴を夢中で追いかけていた。 (番外編)

「みゃう⑭エピローグ

病院から戻ると、珍しく大家さん夫婦がアパートの前に来ていた。 どうやら、新しく入居する人の部屋を確認していたらしい。 挨拶をすると、奥さんからは元気な声が、大家さんからは相変わらずの控え目な笑顔が返ってきた。 私は、先日見た不思議な猫の話をし…

「みゃう」⑬春の幻

みゃうがいない夏は、あっという間に過ぎていった。 秋になり、次第に木々の葉が色づき、風に舞う様子を、誰もいない部屋の中から眺めた。 やがて、冬枯れの木々を冷たい北風が揺らすようになっても、それは変わらなかった。 そして、季節は流れ、また、春が…

「みゃう」⑫旅立ち

それから、一瞬だけ、意識が飛んだように思う。 気がついたら、部屋の中には、カーテンを透して薄明かりが差し込んでいる。 目の前には、静かにうずくまるみゃうがいた。

「みゃう」⑪闘病

タオルでくるんだみゃうを抱いて、アパートの部屋に入った。 その途端、堪えていたものが溢れだした。 みゃうを抱き、立ち尽くしたまま、私は動けずにいた。 ただ、涙だけが流れ落ちて行く。 頬をつたった涙が、みゃうの上に落ちる。 みゃうが、みゅ、と、小…

「みゃう」⑩病院へ…

なんで…? 様々な思考が交錯して、どうしたらよいのか判断できずに、そのまましばらくしゃがみこんでいた。 目の前では、相変わらずみゃうがうずくまっている。 そうだ。病院に連れていかなきゃ。

「みゃう」⑨発病

その日は、夏も後半に差し掛かった、よく晴れた金曜日だった。 昼間の強い日差しも緩んだ夕方、繁華街へと向かう仲間の誘いも緩く断り、家への道を急いでいた。 途中、少し食欲が落ちたみゃうのために、猫缶などを買うのは忘れなかった。 涼しくなった風が心…

「みゃう」⑧予兆

その日は少しワクワクした気持ちで歩いていた。 今朝のようなこともあるかと思い、帰りに寄り道して猫用のトイレなどを買い込んできたのだ。 これでまた少し、みゃうの飼い主に近付いたような気がして、楽しいような、嬉しいような、なんだかバカみたいだけ…

「みゃう」⑦初めて触れた日

戸を開けて、中に入ろうとすると、何かが足元をすり抜けた。 みゃうだ。 私は慌てて扉を閉めた。 今の様子を奥さんに見られてないだろうか。そう思うとドキドキだった。 「おまえ、どこにいたんだよ」 今まで、その辺の茂みにでも隠れていたのだろうか。それ…