トレイルランニング
レースから1ヶ月。 私は固定された足で歩いていた。 病院の診断は、剥離骨折。 全治2ヶ月らしい。 この足でよく走りきれたものだと、つくづく思う。
最終エイドから、もう30分は走っただろうか。 辺りは既に闇に覆われていた。 大きく左にカーブを切り、道幅のある坂道を下っていると、この辺りに住む人だろうか、車や人がすれ違うようになった。 その彼らが、「頑張れ」と声を掛けてくれる。 ありがとうご…
日没間際の陰り行くロードの先に、エイドらしきものが見える。 あれが天狗木峠のエイドか。 見えるのになかなか近付けないもどかしさの中で、もがくようにして進む。
林道だ。 ここまで来れば、もう険しいトレイルはない。 さあ、ぶっ飛ばすぞ。 実際には、ぶっ飛ばすと言うには程遠いスピードだが、平坦な分、確実に速い。 淡々と進んで行くと、前方のランナーに追い付いた。
このレースでは、天辻峠から先は、エイドの通過に対して関門時刻が設定されている。 最初の関門になる、ここ天辻峠の関門時刻は16:00だ。 しかし、昨日のブリーフィングでも説明があったとおり、関門時刻をギリギリに通過したのでは、まず時間内の完走は難し…
森の中のトレイルをアップダウンしながら更に進んでいくと、ロープが掛けられた斜面が続く険しい道に出た。 このコース最大の難関、「乗鞍の壁」だ。 最大斜度が40度を越えるとロープがつけられると聞いたことがある。 その、まさに崖のような斜面を、何本も…
武士ヶ峰のエイドに着くと、まず、小山の手前にリタイア予定者がいることを伝えた。 スタッフの方が、お疲れ様、ありがとうございますと言って地元の特産品らしい素麺を差し出した。
一人抜き、また、一人抜いた。 道は一度大きく下ってから天狗倉山への登りに差し掛かる。 そうしているうちに、あることに気がついた。 足の着き方さえ間違わなければ、それ程痛くない。 もちろん、間違えれば激痛が走るが。
ふうっ。 大きく息をついてから、また歩き出す。 とにかく、目の前の一つひとつをクリアしていこう。 何としてでも、ゴールまでたどり着かなければ。 先行する選手を追って、目の前の直登をよじ登る。 時には斜面に生えている草を掴んで、一歩、一歩、身体を…
ふうっ、と息をついて座り込む。 「お疲れさまでした。大丈夫ですか?」 スタッフの方が、これですね、と、私のスマホと名物の柿の葉寿司を手渡してくれた。 よかった。 1つ、心のつかえが取れた。 時計を見ると、ちょうど8時。 一体、どれだけ飛ばすとこ…
左の足首に痛みを感じる。 試しに、左足で地面を押してみる。 …っ! 激痛が身体を駆け抜ける。 すぐには動けそうもないので、とりあえずトレイル脇の茂みに、ズリズリと身体を移して道を空ける。
コースは再びトレイルに戻る。 今度は急登だ。 最初は階段だったが、次第に大きな岩の続く山道へと変わる。 この四寸岩山へと続く険しいトレイルでは、スピードを落とさないように大股で、一歩ごとに両手で膝を押しながら岩の段差を登る。 その段差が一息つ…
レース前日、ブリーフィング(競技上の注意点及びコースの最新情報説明)に続き、選手は本堂に集められた。続いて大勢の僧侶たちも本道に入り、そしておもむろに護魔焚きの祈祷が行われた。 読み上げられていく数々の真言に続いて祈祷の内容が読み上げられる。…
前夜の予報からは打って変わり、空には青空が広がっていた。 山の中で迎える朝は、まさに凛とした少し張り詰めたような清々しい空気に包まれ、これから山に向かう選手たちの気持ちを更に引き締めるようだった。 スタートとなる境内には、これより50kmを越え…