左の足首に痛みを感じる。
試しに、左足で地面を押してみる。
…っ!
激痛が身体を駆け抜ける。
すぐには動けそうもないので、とりあえずトレイル脇の茂みに、ズリズリと身体を移して道を空ける。
まもなく、ついさっき追い越した選手がトレイルを駆け降りてゆく。
痛みが治まるまでは、じっとしてるしかないだろう。
「どうしました?」
何人かの選手が通りすぎた後、誰かが声をかけてきた。
さっきのスイーパーさんだ。
転んで動けないことを伝えると、携帯電話の事と合わせてすぐ先のエイドに伝えると言い、他の選手を追って行った。
スイーパーさんが去った後、これからどうするか考えた。
棄権するか。
続行するか。
何れにしても、次のエイドまでは自力で動くしかない。
私は、背負った荷物を下ろし、靴を脱ぎ靴下を下ろした。
足首は、あり得ないくらいに腫れ上がっていた。
私は、数ある装備の中からテーピングを取り出した。そして、これまでに何度も繰り返してきた方法で足首を固定する。
こういった非常用の装備は、普段は全く必要ないが、何か起きてしまったときには非常に役に立つ。勿論、使わないで済むに越したことはないのだが。
足首の固定が終わり、靴下を履いていると、一人の人が山道を上がってきた。
大会スタッフの方が様子を見に来てくれたのだ。
彼は、携帯電話が届いていること、そして、エイドまではあと少しであることを教えてくれた。
「動けそうですか」
「…なんとか」
スタッフの方の問いにそう答えると、その人はエイドで待ってると告げてトレイルを戻っていった。
私は、彼を見送ったあと、荷物をおさめたバックパックを背負って立ち上がった。
いつもの捻挫なら、これで行けるはずだ。
立ち上がった途端、左足の踵が足首にめり込むような痛みを感じる。
いつもの捻挫とは少し違うようだ。
でも、立てない訳ではない。
力の入らない足で、よたよたとトレイルを降る。
数百メートルをようやっと移動して、なんとか最初のエイドがある九十丁まで辿り着いた。