2018-01-01から1年間の記事一覧
東京の雪は、あっという間に溶ける。 どんなに降り続いても丸一日よりは降らないし、次の日は必ずと言っていいほど天気になり、強い陽射しを受けて、大抵はその日のうちにみんな溶けてしまう。 サラミに起こされて町に出ると、昼前なのに、既に雪は大分無く…
その日は、空気は凍りついたように冷たく静かで、空には真っ白な雲が一面に広がっていた。 ちょうど、サラミを小さな庭に出しているときに、空からは白いものが舞い降りてきた。 初雪。 もちろん、サラミにとっては初めての雪だ。 サラミは、空を舞う白いも…
サラミと暮らし初めて、4ヶ月が過ぎた。 足が太いから、立派な犬になるね、と言われていたけど、実際には足だけが伸びず、胴長短足な「立派な犬」になった。 先日の一件があってから、外でも飼えるように、僕はサラミと一緒に大家さんやご近所に挨拶に回っ…
サラミと暮らし始めてから、僕は残業もせず、飲みにも行かないで、速攻で帰宅する生活になった。 サラミがまだ小さかったこともあったけど、何よりサラミと一緒にいたかった。 家に帰ると、玄関まで迎えに来たサラミを連れて散歩に出た。 まだ暑さの残るなか…
サラミは、基本的には頭が良いようで、教えたことは、すぐに覚えた。 でも、やんちゃなところは変える気がないのか、やりたいと思ったことはやることにしているようだった。 当然、やんちゃの後は怒られるのだが、一体どこで覚えたのか、まずは愛嬌で許して…
目覚ましよりも早く、僕はサラミのペロペロ攻撃で目が覚めた。 そうだ。散歩に連れてかなくちゃ。 外はすでに明るく、早くも夏の暑さが始まりつつあった。 やたら走りたがるサラミをなだめつつ、僕はあくびをしながら、まだ動き出したばかりの町を歩いた。 …
僕は部屋を出ると、アパートを振り返った。 ここの良いところは幾つかある。 古いけどきれいなこと。 小さいけど専用の庭がついてること。 駐車場がついてること。 他を知らないけど、大家さんもいい人だと思う。 もし、サラミが大きくなったら、あの庭で飼…
アパートに着くと、サラミを部屋に下ろしてやった。 サラミは、早速そこら辺の匂いを嗅いで探索を始めている。 どうやら、好奇心も強いらしい。 さて、まずは水と餌入れか。 友人のメモによると、軽い入れ物はすぐに引っくり返るので重いほうがいいらしい。 …
サラミは僕が飼っている犬の名前だ。 なぜサラミかと言っても、特別な理由はない。 初めてこいつの顔を見たときに、なんとなく浮かんだのだ。 それに、本人も気に入っているようなので、そう呼ぶことにしている。 その証拠に、名前を呼ばれると激しく尾を振…
やがて、周り中の世界を黄金色に輝かせていた夕陽が、遠い町並みの向こうへと消えて行き、その最後の赤い光が届かなくなると、辺りは夜の街へと姿を変えていった。 黄金色に輝く奇跡の時間は、日没と共に終わりを告げ、風も治まった園内は、静かな空気に包ま…
次の瞬間。 突然、強い風が吹いた。 「え…」 地面に積もっていた落ち葉が舞い上がり、枝に残っていた葉は一斉に樹々を離れ宙を舞う。 折からの夕陽に照らされて、空中で輝く黄葉。 ゴールデン・ダスト。 銀杏のゴールデン・ダスト。
広い園内の一番奥には、銀杏の並木道がある。 その並木道は、まさに今がそのピークとでも言うかのように、地面に近いところから枝の先端まで樹々の葉が黄色く染まっていた。 そして、地面の上には、やはり黄色く染まった葉が降り積もり、辺り一面が銀杏の色…
「うわぁ…」 広い園内は、まるで日本中の秋を集めてきたかのように、見事に染まっていた。 「すごいね」 「ほんと、ね」 頃よく傾いた陽射しが、園内に黄色い光を投げかけ、赤や黄色に色付いた樹々や、空気までも黄金色に染め上げている。
時計の針は午後2時を少し過ぎていた。 薄暗い店内には、今淹れたばかりであろう珈琲の香りが漂っている。 他の客の会話が適度に打ち消される程度に流れているエリックサティを聞き流しながら、私は注文したアールグレイが運ばれてくるのを待っていた。 この…
レースから1ヶ月。 私は固定された足で歩いていた。 病院の診断は、剥離骨折。 全治2ヶ月らしい。 この足でよく走りきれたものだと、つくづく思う。
最終エイドから、もう30分は走っただろうか。 辺りは既に闇に覆われていた。 大きく左にカーブを切り、道幅のある坂道を下っていると、この辺りに住む人だろうか、車や人がすれ違うようになった。 その彼らが、「頑張れ」と声を掛けてくれる。 ありがとうご…
日没間際の陰り行くロードの先に、エイドらしきものが見える。 あれが天狗木峠のエイドか。 見えるのになかなか近付けないもどかしさの中で、もがくようにして進む。
林道だ。 ここまで来れば、もう険しいトレイルはない。 さあ、ぶっ飛ばすぞ。 実際には、ぶっ飛ばすと言うには程遠いスピードだが、平坦な分、確実に速い。 淡々と進んで行くと、前方のランナーに追い付いた。
紀和隧道上のチェックポイントに着くと、そこにいた長身の男性か私を見て笑顔を見せた。 序盤、転倒した時にお世話になったスイーパーの方だ。 「君がここまで来てくれてよかったよ」 そう言う彼にお礼を言いつつ、時間を確認する。 「ぎりぎりですか」 「ぎ…
このレースでは、天辻峠から先は、エイドの通過に対して関門時刻が設定されている。 最初の関門になる、ここ天辻峠の関門時刻は16:00だ。 しかし、昨日のブリーフィングでも説明があったとおり、関門時刻をギリギリに通過したのでは、まず時間内の完走は難し…
森の中のトレイルをアップダウンしながら更に進んでいくと、ロープが掛けられた斜面が続く険しい道に出た。 このコース最大の難関、「乗鞍の壁」だ。 最大斜度が40度を越えるとロープがつけられると聞いたことがある。 その、まさに崖のような斜面を、何本も…