日没間際の陰り行くロードの先に、エイドらしきものが見える。
あれが天狗木峠のエイドか。
見えるのになかなか近付けないもどかしさの中で、もがくようにして進む。
到着。
時刻は18:45、関門閉鎖の15分前。
お疲れさま、もうすぐですよとスタッフの方が声を掛けてくれる。
そう。ゴールまではもうすぐだ。
しかし、時間もない。
すでに身体が受け付けなくなっていた甘いスポーツドリンクを捨て、水に入れ換える。
レース終盤には、何故か甘いものが口に入れられなくなるのだ。
幸い、ゴールまでは残り約7kmだ。
糖分を摂らないことによるガス欠(エネルギー不足)で走れなくなる心配も、まずない。
ボトルを水で満たし、ヘッドライトを装着すると、夕闇迫る中、ゴールへの最終区間へと足を向けた。
太陽が遠い山並みの向こうへと近付くのを横目で見ながら、残り時間でゴールするために必要なスピードを計算する。
現在、18:50少し前。
残り7kmで70分。
ここからは、基本下りのロード(舗装道路)だ。
普通なら、歩いてでも行けるはず。
全身の筋肉は、すでに限界を超えてギシギシと傷んでいた。
出来ることなら、もう、これっぽっちも走りたくない。
そこで、試しに歩いてみた。
今、出来る限りの全力歩行。
少し歩いてから、腕に着けたGPS時計で計測したペースを確認する。
結果、1kmあたり13分。
くうっ。
間に合わないじゃないか。
仕方なく、最後の力を振り絞って走りだす。
林の向こうでは、太陽が空を赤く染めながら、今日最後の光を投げかけている。
その様子を横目で眺め、写真を撮りたい衝動に駆られながらも走り続ける。
でも、と足を止める。
一枚だけ撮影。
太陽と、地平線の赤から上空の青までグラデーションに染める空をバックに、手前の木々をシルエットで浮き上がらせた様子をスマートフォンのカメラに収める。
そして、ちゃんと撮れてるかは確認せずに再び走り出す。
上手く撮れてなくても、撮り直している時間はない。
緩い坂道を駆け降りながら、腕の時計でペースを確認する。
1km約8分…。
参ったな。
このペースでも8分かかるのか。
ふうっ、と見上げると、道の両側に立つ木々に囲まれて、夕暮れの青く深い空が見える。
その空に届く、淡く透明な光が、次第に色を失ってゆく。
それと代わって、ヘッドライトの灯りがその輝きを増し、曲がりくねった薄暗いアスファルトの坂道を照らし出す。
坂道は徐々に勾配を増し、もはや力の入らなくなった膝に、更にダメージを与える。
何度走っても、レース終盤の下りはきついものだ。