駆け抜ける森 見上げた空

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サラミと僕と ⑫ドッグフード

サラミの餌は、いつもカリカリのドッグフードだ。

たぶん、あまり美味しくはないけど身体にはいいと思うものをあげている。

比較的高くはないけど、通販でしか買えず、届くのに数日かかるのが難点だ。

それが、ちょっと残量の管理を怠っていたら、気付いたら無くなっていた。

サラミは、パンは好きだけど間違いなくお腹が緩くなる。それに、コストも高くついてしまう。

他のものでもコストパフォーマンスは悪い。

仕方がないので、取り敢えずその辺に売っているドッグフードを買ってみた。

 

 

それが、どうやら美味しいらしくサラミは喜んで食べている。

しかし、どうも身体には合わないらしく、日増しにサラミのお腹が緩くなった。それでも美味しいらしく、相変わらず喜んで食べている。

案外、犬ってバカなのかな。

それでも、勿体ないので取り敢えず無くなるまではそのドッグフードを食べさせることにした。

 

ようやくその辺で買ったドッグフードがなくなったので、いつもの物に戻して、いつものようにサラミの餌入れに入れた。

ところが、あんなに食べることが好きなのに、サラミは餌入れを見ては私を見上げる動作を繰り返した。

どうやら、これじゃない、と言っているらしい。

しかし、ここでサラミの要求を飲むわけにはいかない。

またお腹を壊すだけだからね。

ここは、心を鬼にして、笑顔でサラミに言った。

「サラミの餌はこれだよ」

しかし、サラミにとっても、毎日の餌は重大な問題だ。

ここで妥協する気はないらしい。

まるで、いつものように可愛くしていれば思い通りになると思っているかのように、笑顔で尻尾を振っている。

でも、ここは、無視。

僕は、美味しい餌が貰えると信じてるサラミに背を向けて、自分の食事を始めた。

その日、結局サラミは餌を食べなかった。

 

次の朝、見るとまだ餌が残っている。

全く食べた気配はない。

どうやら、違う餌が出てくるまで食べないつもりらしい。

いつものように朝の散歩を済ませると、僕は水だけを入れ換えた。

サラミは、餌入れと僕の顔を交互に見て尻尾を振っている。

でも、ここはスルー。

この可愛さに負けてはいけない。

まるで、可愛くしていれば何でも思い通りになると思っている強かな少女のように、今朝もまたサラミは可愛い笑顔で僕を見ているけど。

ここまで来たら、我慢比べだ。

サラミが餌を食べるか。

僕が可愛さに負けるか。

 

次の朝になっても、サラミは餌を食べていなかった。

これで三日目だ。

相変わらずサラミは笑顔で僕を見上げて尻尾を振っている。

ここまで来ると、健気にさえ見えてくる。

そんなに美味しくないのかな、この餌。

僕はドックフードの袋をじっと見つめた。

しかし、あの餌はあり得ない。

かといって、何倍もする物なら美味しくて身体にも良いのかもしれないけど、それじゃあ自分が食べれなくなってしまう。

考えてみれば、人間のように毎日色々なものを食べるのではなく、サラミは、毎日同じもの、与えられたものを食べるしかない。

身体に悪くない、サラミがお腹を壊さない安い餌が何種類もあればいいのに。

また、洋食屋さんの奥さんに骨もらったらあげるからね。

僕はしゃがみこんで、笑顔のサラミの頭を撫でながらそう言った。

 

次の朝、餌入れは空になっていた。