サラミと暮らし始めてから、僕は残業もせず、飲みにも行かないで、速攻で帰宅する生活になった。
サラミがまだ小さかったこともあったけど、何よりサラミと一緒にいたかった。
家に帰ると、玄関まで迎えに来たサラミを連れて散歩に出た。
まだ暑さの残るなか、蝉時雨を聞きながら歩いた夏の日。
少しずつ日が早くなり、夕暮れまでの空の色の変化を一緒に見上げた夏の終わり。
少しずつ涼しくなり、色とりどりの花の中を駆け抜けた初秋。
稲刈りも始まり、風に揺れる黄金色の稲穂の中で過ごした秋。
紅葉に燃える公園を歩き、木枯らしの吹き始めた並木道を歩いた。
そうして、いつも一緒にいた。
そして、いつも一緒に歩いた季節が流れて行くのを眺めていた。
そんな、冬の始めの頃に、いつものように、仕事が終わると速攻で帰ろうとしていた僕は同僚たちに声をかけられた。
「な~お~くん、今日も早いねぇ」
「そろそろ俺たちにも話してくれてもいいんじゃないかな」
なんだ?
ニヤニヤして、コイツら何か勘違いしてるな。
サラミが待ってるんだ、邪魔しないでくれ。
「へえ、咲良美っていうのか」
「キラキラだねぇ」
いや、サラミは犬で…。
「そうかそうか、犬のように可愛いんだな」
「という訳で、今日は付き合え」
ダメだ、コイツら。
仕事仲間の三人に拉致されて、僕らは夜の町に吸い込まれた。
彼等から解放されたのは、たっぷり数時間が過ぎた後だった。
今までちゃんと説明していなかったから仕方ないか。
玄関を開けると、サラミがそこで待っていた。
ん?いつもなら奥から駆けてくるのに。
何かもじもじしてるし。
どこか違和感を感じながら、僕は扉を閉じた。
サラミが飛び出さないように着けた玄関の柵を外そうとして、僕はようやく違和感の正体に気づいた。
サラミの足元には、サラミの吐瀉物が広がっていた。
あ~らら。
急いでそこからサラミを拾い上げようと、僕は手を伸ばした。
すると、サラミは嬉しさのあまり、その場で腹を見せて寝転んで身体をくねらせ始めた。
あ、こら。
しかも、嬉しさのあまり緩んだのか、それまで溜め込んでいたものを、噴水のように一気に放出し始めた。
あぁぁっ。
僕は、とにかくサラミを玄関から出すことにした。
しかし、後の祭り。
サラミも玄関も、サラミが上と下から出したものまみれになっていた。
そして、僕も。
きっと、家の中で用を足してはいけないと教えていたので、ずっと我慢していたんだと思う。
だけど、我慢していて気持ち悪くなって戻しちゃったんだろう。
でも、両手で抱え上げられたサラミは、スッキリした顔で、僕に尻尾を振っている。
…お前、嬉しそうだなぁ。
取り敢えず、出すものは出ちゃったようなので、惨劇の舞台となった玄関を片付けてから、僕たちは風呂に入った。
サラミは、僕と一緒にいると、どこで何をしていても嬉しそうに見えた。
そんなサラミを見ていると、どこか安心する。
その後、僕たちはさっぱりした気持ちで夜の散歩へと出掛けた。