さあ、君の番だよ、というように彼は正面から見ている。
彼がやって見せたように、後ろの空間に身を任せてみた。
そのあとは、どうなったのかは分からない。微かな浮遊感のあと、私は鉄棒の前に立っていた。
隣では、彼が笑っていた。
ほらね、出来ただろ、というように彼は私を見て、そして、また鉄棒の上に上がった。「しばらくこれで慣れるといいよ」と言うと、彼はまた飛んで見せた。半グライダーだ。
私も再び鉄棒に上がる。今度はうまく行かない。着地でしゃがみこんでいた。意外と2回目は身体が硬くなってうまくいかない。それでもちゃんと身体は鉄棒を回ってその前にしゃがんでいた。その事が、却って自信になった。
それからは、3人で交代で鉄棒をとんだ。私は「半グライダー」で、彼らはその時その時で選んでとんだ。何度もとんでいると、段々感覚がわかってきた。それこそ「身体でわかる」というものだ。
それを知ってか知らずか、彼は「そろそろやってみなよ」と言うと、ひょいと鉄棒に上がり、くるっと飛んで見せた。グライダーだ。
「乗ったら、すぐ回ればいいんだよ」
スタっと着地した彼は、笑いながら言った。
「大丈夫だよ。出来るよ」
気持ちの上では、まだ若干のハードルはあった。でも、なんか分かるような気がした。
鉄棒に上がり、まず、右足を腕の外側に掛ける。そして、その足をグッと踏み込んで少しだけ身体を持ち上げる。そこで左足を鉄棒に乗せる。時間をおかず、そのまま後ろに体重を預ける。
いままでよりも、大きな浮遊感、そして…!
気が付いたら、鉄棒の前にしゃがんでいた。
「すごいすごい!できたね!」
駆け寄ってきた彼を、しゃがんだまま見上げた。
あの、グライダーが出来た。
自分でも、凄い!と、思った。
一体、どうなってこうなったのか分からない。でも、確かに鉄棒を回り、翔んで、こうして着地したのだ。
着地は成功とまでは言えないかもしれない、でも、確かに翔んだし、あの、初めて覚えた浮遊感は素晴らしいものだった。
それからは、森の木漏れ日が傾いて、オレンジ色の光が辺りを淡く染め始める頃まで、3人で交代で翔んだ。家から遠かったので、暗くなる前に帰ったが、その頃には、私も安定して翔べるようになっていた。
その後、彼の家に行くことはなかったが、彼とはあたらしい技の開発をしたりして遊んだ。
あたらしい技は、主に私が考えて、彼が実行した。
「本グライダー」は、鉄棒に足を乗せるときに、両手の外ではなく、両手の間に両足を閉じた形で乗せて翔ぶ。難易度は高くなるが、翔んでる形が綺麗だった。
鉄棒に上がったあと、後ろではなく前に回るのもやってみたが、これは難易度が高い割には地味な技だったので、あまりやらなかった。