砂場の側には鉄棒や雲梯があった。どちらも最初はぶら下がっている事さえ出来なかったが、どちらも何かのきっかけで楽しくなった。それこそ、身体の使い方のイメージが閃いたのだろう。それからはクラスの中でも得意な方に入った。
中でも鉄棒は、最初はまるっきり駄目だった。逆上がりなど、どうしたら身体が鉄の棒に上がるのか、全く理解できなかった。しかし、何かのきっかけで閃いてからは、面白いように上がれるようになった。
これが始まりで、ついには鉄棒の大技を身に付けるまでになった。
この大技は、当時「グライダー」と呼んでいたもので、鉄棒の上で、鉄棒を掴んだ手を跨ぐように足を掛けて乗り、そのまま後方に回転して、最後は前方に飛んで着地するという、ちょっとした、体操競技の鉄棒の技っぽいもので、出来ると、ちょっとカッコ良かった。
ただ、この技は閃いたのではなく友人から教わったものだった。といっても、手取り足取りとか、理屈ではなく、それこそ「閃く感覚」そのものを教わった感じだった。
その友達は、勉強はあまり得意な方ではなかったけど、運動神経は抜群だった。
休み時間に、グライダーをカッコよく決める彼に「凄いね」と言ったら、「教えてやるから、うちに来いよ」と言ってくれたので、誘われるままに行って見ることにした。
彼の家は、私たちの住む団地からは少し離れた森のなかだった。家の前にある小さな広場には、一台の大きな鉄棒があり、木漏れ日が柔らかく差し込んでいた。
その鉄棒で、彼と、彼の弟が交互に飛んで見せてくれた。「お前もやってみろよ」と言うので、今度は自分が上がってみる。「最初は片足でやるんだ」と言われ、恐る恐る鉄棒の上に片足を掛ける。
片足が下がってるので、思ったよりも安定している。これなら大丈夫。でも、ここから動けない。
すると、彼は鉄棒の隣のスペースに乗ってきた。
「そしたらさ、そのまま後ろに倒れるんだ」
そう言うと、彼は片足を掛け、両手で鉄棒を持ったまま、ふっと後ろに倒れてみせた。
この技は、確か「半グライダー」と呼んで、鉄棒を掴んだ両手の間に右足を乗せてから飛ぶ技だった。彼はそのままくるっと回り、自然の法則に従って、綺麗な軌跡を描いて着地して見せた。
「あとは飛ぶだけだよ」
まさに、彼の言うとおりに感じた。後ろに倒れたあとは、自然に任せていれば彼のように飛べるような気がした。