その日は少しワクワクした気持ちで歩いていた。
今朝のようなこともあるかと思い、帰りに寄り道して猫用のトイレなどを買い込んできたのだ。
これでまた少し、みゃうの飼い主に近付いたような気がして、楽しいような、嬉しいような、なんだかバカみたいだけど、そんな気分だった。
アパートの前まで来ると、大屋さんが車を磨いていた。そういえば、大屋さんって、ここで車の手入れをするんだっけ。
無口な職人気質で、一見怖い印象の大屋さんは、大の車好きだった。
趣味でメカニックをしていた経験もあるらしく、車のことで話し掛けると嬉しそうに話をしてくれる。
「こんばんは」
無視して通りすぎるのも却って怪しく思われると思い、声を掛けることにした。
猫用トイレなどの袋の手を背中に回して。
大屋さんは私を見て、一瞬だけニコッとした。
そして、すぐまた車を磨く作業に戻った。
私は軽く会釈して通りすぎた。
「第一関門突破!」
そうつぶやくと、私は怪しくない程度に急いで部屋に入った。
「みゃ」
私が戻るのを待ってたのか、扉の音を聴いてみゃうがトコトコと歩いてきた。
そして、足元に身体を擦りつける。
「ただいま、みゃう」
呼び掛けると、みゃうは再び、みゃ、と鳴いて部屋に戻って行った。
部屋に入ると、私は袋から猫用トイレを取り出し、部屋の奥のみゃうの箱の横に置いた。
「みゃう、ここがトイレだよ」
みゃうは、物珍しそうに猫用トイレの臭いを嗅いだりしている。
そして、探索は済んだのか、カリカリの餌を少しかじってから、よいしょ、っと箱に入った。
朝起きてみると、みゃうはまだ寝ていた。
みゃうも寝坊することがあるんだな、と思いながら、カリカリの餌を追加して、水入れを洗って新鮮な水に入れ換えた。
「みゃう、行ってくるよ」
まだ眠るみゃうに小声で話しかけて、私は家を出た。