駆け抜ける森 見上げた空

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「みゃう」⑥大屋さんの奥さん

目が覚めると、みゃうはもう段ボールの箱から出ていた。

どこにいるのかと部屋の中を見回してみると、窓の下の薄日が差し込む辺りに動くものがある。後ろから光を受けて、ふわふわした輪郭が浮き上がっている。

みゃうだ。

起き上がった私を見て、みゃうは、みゃっと鳴いた。

いつもなら、私を見かけると寄ってきて身体を擦り付けるのだが、今朝は窓の下から動こうとせず、こちらを見ている。

そうか、トイレに行きたいのかな。

掃き出しの窓を開けると、ひょいっと飛び降りて、そのままどこかへ駆けていった。

 

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しばらく様子を見ていたが、戻ってくる気配がないので、私も支度をして出掛けることにした。

外出先から戻ると、珍しく大家さんの奥さんがアパートの前に来ていた。

「こんにちは」

取り敢えず声をかける。

奥さんは、私を見つけて微笑んだ。

「こんにちは」

奥さんは、ゆったりと返した。

「どうされたんですか?」

「いえね、最近猫を見るって言われてね」

「そういえば、春の頃にその辺で子供を生んでたみたいですね」

私は、明後日の方を見ながらすっとぼけた。

「ああ、そうなんだねえ」

奥さんは続けた。

「その辺で、糞とかされないといいんだけどね」

「そうですね」

奥さんは、茂みの辺りを眺めていた。

私は、猫は嫌いな人のところに糞をするという話を思い出していた。

そういえば、奥さんは猫をどう思ってるんだろう?

しばらく眺めた後で、奥さんは腰に手を当てて、よっこらしょ、と身体を起こした。

「本当はね」

奥さんは語り始めた。

「私は動物を飼っても良いと思っているんだよ。でも、躾ができない人もいるし、動物が嫌いな人もいるからね」

奥さんは、私を見た。その目は、あなたは大丈夫よね、と言っているように見えた。

どう反応してよいのか判らず、私は黙って聞いていた。

「私も前は飼っていたんだよ。犬だけどね」

奥さんは遠くを見ながら続けた。

「また飼いたいけど、今からだと私が先に逝っちゃったら可哀想だからね」

そう言うと、奥さんは再び私に笑いかけ、そして帰って行った。

失礼します、と頭を下げ、奥さんを見送る。ようやく緊張から解放され、玄関の鍵を開けた。