駆け抜ける森 見上げた空

ツイッターで掲載中の『連続ツイート小説』おまとめサイトです。

Kobo Trail 編 ⑦壁を越えろ

 一人抜き、また、一人抜いた。

 道は一度大きく下ってから天狗倉山への登りに差し掛かる。

 そうしているうちに、あることに気がついた。

 足の着き方さえ間違わなければ、それ程痛くない。

 もちろん、間違えれば激痛が走るが。

 

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Kobo Trail 編 ⑥揺れ動く想い

 ふうっ。

 大きく息をついてから、また歩き出す。

 とにかく、目の前の一つひとつをクリアしていこう。

 何としてでも、ゴールまでたどり着かなければ。

 先行する選手を追って、目の前の直登をよじ登る。

 時には斜面に生えている草を掴んで、一歩、一歩、身体を引き上げる。

 そうして、斜面を登っては、また降る。

 ひたすらその繰り返しが続く。

 完走したい。

 そして来年のUTMFに繋ぎたい。

 思うように前へ進めない身体とゴールへの想いとの間で揺れ動く。

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Kobo Trail 編 ⑤行くか、やめるか

 ふうっ、と息をついて座り込む。

 「お疲れさまでした。大丈夫ですか?」

 スタッフの方が、これですね、と、私のスマホと名物の柿の葉寿司を手渡してくれた。

 よかった。

 1つ、心のつかえが取れた。

 時計を見ると、ちょうど8時。

 一体、どれだけ飛ばすとこうなるのか。

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Kobo Trail 編 ④応急処置

 左の足首に痛みを感じる。

 試しに、左足で地面を押してみる。

 …っ!

 激痛が身体を駆け抜ける。

 すぐには動けそうもないので、とりあえずトレイル脇の茂みに、ズリズリと身体を移して道を空ける。

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Kobo Trail 編 ③転倒

 コースは再びトレイルに戻る。

 今度は急登だ。

 最初は階段だったが、次第に大きな岩の続く山道へと変わる。

 この四寸岩山へと続く険しいトレイルでは、スピードを落とさないように大股で、一歩ごとに両手で膝を押しながら岩の段差を登る。

 その段差が一息つき、少し前が渋滞しているタイミングで、この険しい様子を写真に撮ろうとポケットに手を伸ばす。

 …無い。

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Kobo Trail 編 ②快晴の朝

 レース前日、ブリーフィング(競技上の注意点及びコースの最新情報説明)に続き、選手は本堂に集められた。続いて大勢の僧侶たちも本道に入り、そしておもむろに護魔焚きの祈祷が行われた。

 読み上げられていく数々の真言に続いて祈祷の内容が読み上げられる。

 これから旅に出る選手たちの道中の安全と完走、そして、天候の回復。

その甲斐あってか、夜からは雨の天気予報の中、朝になると空はみるみる晴れ渡っていった。

 やがて、境内には祈祷の時と同じ法螺貝の音が鳴り響く。

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