駆け抜ける森 見上げた空

ツイッターで掲載中の『連続ツイート小説』おまとめサイトです。

Kobo Trail 編 ⑥揺れ動く想い

 ふうっ。

 大きく息をついてから、また歩き出す。

 とにかく、目の前の一つひとつをクリアしていこう。

 何としてでも、ゴールまでたどり着かなければ。

 先行する選手を追って、目の前の直登をよじ登る。

 時には斜面に生えている草を掴んで、一歩、一歩、身体を引き上げる。

 そうして、斜面を登っては、また降る。

 ひたすらその繰り返しが続く。

 完走したい。

 そして来年のUTMFに繋ぎたい。

 思うように前へ進めない身体とゴールへの想いとの間で揺れ動く。

f:id:RunnerToshi:20171224184115j:plain

続きを読む

Kobo Trail 編 ⑤行くか、やめるか

 ふうっ、と息をついて座り込む。

 「お疲れさまでした。大丈夫ですか?」

 スタッフの方が、これですね、と、私のスマホと名物の柿の葉寿司を手渡してくれた。

 よかった。

 1つ、心のつかえが取れた。

 時計を見ると、ちょうど8時。

 一体、どれだけ飛ばすとこうなるのか。

続きを読む

Kobo Trail 編 ③転倒

 コースは再びトレイルに戻る。

 今度は急登だ。

 最初は階段だったが、次第に大きな岩の続く山道へと変わる。

 この四寸岩山へと続く険しいトレイルでは、スピードを落とさないように大股で、一歩ごとに両手で膝を押しながら岩の段差を登る。

 その段差が一息つき、少し前が渋滞しているタイミングで、この険しい様子を写真に撮ろうとポケットに手を伸ばす。

 …無い。

続きを読む

Kobo Trail 編 ②快晴の朝

 レース前日、ブリーフィング(競技上の注意点及びコースの最新情報説明)に続き、選手は本堂に集められた。続いて大勢の僧侶たちも本道に入り、そしておもむろに護魔焚きの祈祷が行われた。

 読み上げられていく数々の真言に続いて祈祷の内容が読み上げられる。

 これから旅に出る選手たちの道中の安全と完走、そして、天候の回復。

その甲斐あってか、夜からは雨の天気予報の中、朝になると空はみるみる晴れ渡っていった。

 やがて、境内には祈祷の時と同じ法螺貝の音が鳴り響く。

f:id:RunnerToshi:20171224155933j:plain

 

続きを読む

Kobo Trail 編 ①弘法大師の道

 前夜の予報からは打って変わり、空には青空が広がっていた。

 山の中で迎える朝は、まさに凛とした少し張り詰めたような清々しい空気に包まれ、これから山に向かう選手たちの気持ちを更に引き締めるようだった。

 スタートとなる境内には、これより50kmを越える旅に出る選手と、それを送り出す僧侶で溢れんばかりだった。

 そう。今日はトレイルランニング大会。この名刹も、今朝だけはこれから始まる特別なレースのスタート地点として、早朝から普段にはない静かな熱気に包まれていた。

 f:id:RunnerToshi:20171224153915j:plain

続きを読む

「少年時代」⑤青空に抱かれて~背面飛び~

 彼と過ごしたのは、子供が増えて教室が足りなくなり、町の予算が間に合わないために本設として使われていたプレハブの校舎だった。気温などは教室としての基準を満たしていたらしいが、実際には、輻射熱で夏は暑く、熱放射で冬は寒かった。 

続きを読む