紀和隧道上のチェックポイントに着くと、そこにいた長身の男性か私を見て笑顔を見せた。
序盤、転倒した時にお世話になったスイーパーの方だ。
「君がここまで来てくれてよかったよ」
そう言う彼にお礼を言いつつ、時間を確認する。
「ぎりぎりですか」
「ぎりぎりだね」
ここまで来て、ようやく先が見えてきた気がした。
嬉しさで、不意に涙が出そうになる。
しかし、安心するには早い。
残りは約13km。
時刻は17:15、関門閉鎖の15分前だ。
スタッフの方と、スイーパーの方に礼を言い、最後のトレイル区間に向けて出発した。
ここから最終関門の天狗木峠までは約6km。
大きく分けて、前半は険しいトレイル、後半は未舗装の林道だ。
エイドを出ると、まもなく狭く急な登りに差し掛かる。
これまでに登った坂に比べて特別険しいわけではないのだが、幅が狭く、掴まるところがない。
しかも、両側は有刺鉄線だ。
ブリーフィングで、注意して登るようにと言われた所だ。
地面に掴まりながら何とか登っていると、スイーパーの方が後方から追い付いてきた。
「お先に」
少しの間、彼は後ろで様子を見ていたが、すぐに苦戦する私の脇を悠々と追い越して行った。
再び一人になった私は、黙々と斜面を登る。
そう、がっかりしている場合ではないのだ。
彼に置いていかれたので、時間が危ないのではと一瞬考えたが、そんな筈はない。
今は自分が最終ラインなのだ。
違ったって、これ以上速くなんて出来るもんか。
しかし、この時すでに全身の筋肉が悲鳴をあげていた。
もはや、痛みは感じない。
そこら中の筋肉が発熱し、まるで熱中症のように頭がぼーっとしていた。
少し気持ち悪い。
それでも進み続け、有刺鉄線の斜面を越え、幾つかの山を越えると、ようやく少し広い道に出た。