その子猫は、私を見かけると、私を見上げて、みゃう、と鳴いて、身体を私の足などに擦り付けたあと、その辺を歩き回ることが多かった。
かといって、部屋のなかで騒いだり、散らかすこともなかった。
その頃、私は中古の古い二槽式の洗濯機を使っていた。この洗濯機は、洗濯するところ(洗濯槽)と脱水するところ(脱水槽)が別れているものて、洗濯槽の方はふたを開けたまま使うことが多かった。
あるとき、子猫は脱水槽のふたに乗り、くるくる回る洗濯物を眺めていた。きっと、動くものが面白いのだろう。
そう思って眺めたあと、少し席を離れた。戻ってみると、同じところにずぶ濡れになった子猫が毛繕いをしていた。
子猫が来る頃に、網戸を開けずにいたこともあった。いつものように子猫がやって来ると、網戸が閉まっている。すると、何を思ったのか、子猫は網戸をよじ登り始めた。
部屋の中からは、網戸の裏を白いふわふわの塊が動いているように見える。面白いのでそのまま眺めてると、子猫は「おかしい」とでも思ったように時々登るのをやめる。そしてまた少し登る。
半分ほど登った処で、どうにもおかしいとでも言うように、珍しく「みゃあ~」と鳴いた。
あまりにも可愛すぎて、まだまだそのまま眺めていたい気持ちもあったが、やっぱりかわいそうなので網戸を開けてあげることにした。
ガラッ。
網戸を開けた瞬間、子猫はバランスを崩した。
そのまま背中から落ちて、地面に仰向けになった姿勢で、驚いたような顔でこちらを見ている。
「みゃう?」
落ちた姿勢のまま目をまん丸に見開いて私を見ている子猫に、私は声をかけた。
「みゃうちゃん?」
そして、もう一度。
子猫は、みゃう、と一声鳴いた。
そして、安心したように起き上がり、部屋に上がって私の足に身体を擦り付けた。
その時から、子猫の名前は『みゃう』になった。