病院から戻ると、珍しく大家さん夫婦がアパートの前に来ていた。
どうやら、新しく入居する人の部屋を確認していたらしい。
挨拶をすると、奥さんからは元気な声が、大家さんからは相変わらずの控え目な笑顔が返ってきた。
私は、先日見た不思議な猫の話をしてみることにした。
もちろん、みゃうのことは出さず、昔仲が良かった猫の話として。
「ああ、聞いたことあるわよ」
元気な声で奥さんは答えた。
「動物って、死んだあとに、一番会いたい人のところに、一度だけお礼を言いに出ることができるらしいわよ。うちの犬も、旦那のところに出たって」
奥さんは、なんで私じゃなくて旦那なのかしらね、と言いながら大家さんの方を見た。
「でも、それにしても不思議ね」
奥さんは続けた。
「私が聞いた話だと、大抵は死んでから一年くらいで来るらしいけど」
奥さんは私を見た。
「その猫はのんびり屋さんだったのかしらね」
奥さんは、よいしょ、っと腰に手をあてて背中を伸ばした。
大家さんは、車の脇で煙草を吸いながら笑って空を見上げていた。
(「みゃう」猫の恩返し編 完)