やがて列車は減速をはじめ、車内はにわかにざわめき始める。
次の駅は、この路線でも乗降客が多い駅のひとつだ。網の目のように都内に張り巡らされた地下鉄では、大抵の場合、目的地までの間に数度の乗り換えをする。
程なくして列車は止まり、開いた扉に向けて人が動き出す。
と、私の隣にいた(右側の重かった男性)がもぞもぞと動き出し、他の人たちと一緒にホームへと降りていった。
重圧からようやく解放された右腕に、まるで思い出したように血液が流れ始め(そんな訳はないのだが、少なくとも私にはそう感じられた)、微かな痺れを伴ってじわっと暖かくなる。
自由になった腕を曲げ伸ばしていると、替わって隣には若い女性が座った。
先程までとは違い、隣には十分な空間がある。かといって、女性は私を避けているわけでもなく、与えられた空間の真ん中にちょこんと腰を掛けている。改めて、先程までの男性の身体の大きさを感じた。
そういえば、昔こんなことがあった。
7人掛けの普通のロングシートに、普通に男性が窮屈そうに座っている。しかし、どこか違和感がある。
よく見ると、座っている男性は5人なのだ。どうみても5人、しかし、窮屈そうだ。
不思議に思って見てると、やがて一人が席を立ち、替わってそこに女性が座った。そこには、ゆるゆるの空間が生まれていた(もっとも、その空間はすぐに埋められることになるのだが)。
そこで初めて、座っていたのは皆さんLサイズの紳士だったと納得した。
旧態依然とした日本の鉄道のシートが、日本人の体格の変化についていってないのか、いや、女性の方々や私のような人もいるのだからあの人たちが大きすぎるのか…。