駆け抜ける森 見上げた空

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サラミと僕と ⑨洋食屋さん

 東京の雪は、あっという間に溶ける。

 どんなに降り続いても丸一日よりは降らないし、次の日は必ずと言っていいほど天気になり、強い陽射しを受けて、大抵はその日のうちにみんな溶けてしまう。

 サラミに起こされて町に出ると、昼前なのに、既に雪は大分無くなっていた。

 雪解けの町。

 まるで一気に冬から春になったように、柔らかな陽射しが町中に降り注ぐ。

 いつもの洋食屋の前を通りかかると、奥さんが道路の脇に残った、黒く残った雪を水で流していた。

 

 

「おはようございます」

「あら、おはよう。今日は休みの日でよかったわね」

 相変わらずの元気さでそう言いながら、奥さんは仕事の手を休めて、僕と、そしてサラミを見た。

「そうそう、このわんちゃんよね、何て言うんだっけ?」

 そういえば、まだちゃんと紹介していなかったっけ。

 サラミです、と紹介すると、奥さんは声を出して笑った。

「なんだか、あなたらしいわね」

 片手を腰に当ててサラミを見る奥さんの様子を見て、サラミはこの人は大丈夫と思ったらしい。猛烈に愛嬌を振り撒き始めた。

 僕が、飛びかからないように止めていると、ちょっと待ってて、と言って奥さんは一旦店のなかに入って行った。

 

 サラミと店の前で待っていると、少しして奥さんは出てきた。手に何か持っている。

「これ、スペアリブの骨のところ。

 サラミちゃん、大丈夫よね?」

 そう言いながら、ひとつ取り出してサラミに差し出す。

 おいおい、と思ったけど、まあ、たまには贅沢もいいか。

 ふとサラミを見ると、目の色を変えて奥さんの持つ骨に夢中になっている。

 サラミは、奥さんからスペアリブの骨を受け取ると、一度地面に置いて、まるでお辞儀をするように、奥さんと骨を何度も繰り返し見た。

 それから、ようやく骨を咥えてから嬉しそうに僕を見た。

 その様子を見て、奥さんはまた片手を腰に当てて声を出して笑った。

「うちのカレーのスープを取った骨だからね、美味しいわよ」

 奥さんは、そう言って僕に残りの骨が入った袋を渡した。

「また、いらっしゃいね」

 僕は、奥さんに礼を言うと、洋食屋の前を後にした。