サラミは、基本的には頭が良いようで、教えたことは、すぐに覚えた。
でも、やんちゃなところは変える気がないのか、やりたいと思ったことはやることにしているようだった。
当然、やんちゃの後は怒られるのだが、一体どこで覚えたのか、まずは愛嬌で許してもらおうとする。
そんな時は、可愛さに負けそうになるのを堪えてもう一度叱るのだが、そうすると、一旦はスゴスゴと自分のダンボールハウスの中に引き下がる。
でも、「サラミ」、と呼ぶと、嬉々としてはしゃぎながら飛び出してくる。
根本的に、サラミはめげることがなく、そして明るかった。
サラミの好きな「おいた」は3つある。
かみかみ、ブンブン、そして、脱走だ。
サラミは、とにかく何でも噛むのが好きだ。
そこで、柵を買い足して、サラミの「立ち入り禁止」区域を作った。
そのかわり、すでにぼろぼろにされたサンダルはサラミのオモチャにあげた。
それから、サラミは布を咥えてブンブンと首を振って振り回す遊びが大好きだ。
僕がタオルの端を持っていると、反対の端を咥えて、まさに全身を使ってブンブンと振り回すようにして引っ張る。
僕が同じように振り回すと、サラミは更にムキになって引っ張る。
困ったことに、どうやらサラミは、それを留守中にカーテンでやっているらしい。
その証拠に、日増しにカーテンの傷みが増して、裾の方はぼろぼろだ。
注意するにも、僕がいる前ではやらないのでなかなか難しいけど、根気よく、ダメだよ、と教えることにした。
サラミは、やっちゃいけないことを分かってて、僕がいないところではやる傾向がある。
その中でも顕著なのが「脱走」だ。
僕は、時々サラミをアパートの小さな庭に放すことがある。
ある日、サラミは門の小さな隙間から脱走出来ることを覚えた。
その時、しっかり教えたので、僕と遊んでないときでも、僕が一緒に庭にいるときには脱走することはない。
ただ、例えばトイレとかで僕が部屋に入ると、必ずと言っていい程、脱走する。
遠くに行くわけではないので、すぐ捕まるし、行くと喜んで迎えるのでたちが悪い。
そこで、僕はサラミと勝負することにした。
どっちが頭が良いのか、思い知らせてやるのだ。
サラミは何を基準に脱走するタイミングを決めているのか。
僕は、いつも通りサラミを庭に放してから玄関に行き、扉を開け、家には入らずにそのまま扉を閉めた。
僕の部屋の玄関は、庭の出口と直結している。
僕はそのまま静かにサラミを待った。
少しすると、足音を忍ばせて、サラミが庭の出口に現れた。
目と目が合った瞬間、サラミの動きがピタッと止まる。
その後は馴れ合い作戦だ。
愛嬌を振り撒いて駆けてくる。
そうはいくか。
笑顔でじゃれついてくるサラミの頭を、僕はぱこっとひっぱたいた。
サラミはじゃれつくのは諦めて、参った参ったと、その場で腹を見せて寝転んだ。
どこまでも憎めない奴なのだ。
でも、その日を境に、僕の目を欺いて脱走することはなくなった。