駆け抜ける森 見上げた空

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サラミと僕と ③初めてのお出かけ

 僕は部屋を出ると、アパートを振り返った。

 ここの良いところは幾つかある。

 古いけどきれいなこと。

 小さいけど専用の庭がついてること。

 駐車場がついてること。

 他を知らないけど、大家さんもいい人だと思う。

 もし、サラミが大きくなったら、あの庭で飼えるかな?

 僕は車に乗り込むと、助手席の足元に持っていたタオルを広げ、その上にサラミを置いた。

 

 大人しくしててね。

そう言って、僕は車のエンジンをかけた。

 サラミは、一瞬驚いたように動きを止めたけど、すぐに慣れたようで、ふんふんとまたその辺の匂いを嗅ぎ始めた。

 その様子を見て、僕は車をスタートさせた。途中、信号やカーブでは、できるだけ丁寧に運転した。

 サラミは、何度かシートの上によじ登ろうとしてたけど、途中で諦めた様子だった。

 近所のホームセンターに着くと、僕は一瞬迷ってから、サラミに声をかけた。

 ちょっと、待っててね。

 少しだけ窓を開けて、僕はサラミを残して車のドアを閉めた。

 

 この街に住み始めてから、何かにつけて来ている店だったけど、今日はまるで違うものが見えてくる。

 犬と。犬をつれている人と。

 犬の道具と。餌と。

 どうやら、カートから飛び出さないようにすれば、犬をカートに乗せて店内に入ってもいいらしい。ただし、ペットのコーナーだけ。

 今度来るときは、サラミも連れて来よう。

 取り敢えず、今日はさっさと買い物を済まそう。

 犬用の重そうな餌入れ、小犬用のドッグフード、それから…。

 

 思いつくものは、たぶん全部買って駐車場に戻ると、またどうやったのか、サラミは窓の向こうで飛び跳ねていた。

 サラミ、おまたせ。

 サラミに声をかけながら車に買ってきたものを積み込む。

 そして、その中から首輪と散歩ヒモを取り出した。

 ちょっと、歩いてみようか。

 僕は、買ったばかりの首輪をサラミに着けてみた。

 一番小さくしても、まだ緩い感じ。

 まあ、抜けなければいいか。

 そして、他の犬もそうしてるように、やはり真新しい散歩ヒモを繋いだ。

 すると、普段からは信じられないほど、サラミは嫌がって暴れた。

 まさに七転八倒

 周りから見たら、虐待してると思われるんじゃないかと、少しだけひやひやした。

 僕は散歩ヒモを持っているだけなんだけど。

 でも、すぐに慣れたらしく、サラミは何ごともなかったかのようにその辺の探索を始めた。

 初めての「犬の散歩」に出発だ。

 

 ペットショップがあるせいか、ホームセンターの駐車場には多くの犬好きがいて、仔犬のサラミは人気者た。

 サラミは、相変わらず誰にでも愛嬌を振り撒いていて、どうやら番犬には向かなそうだ。

 そして、何人かの人には、足が太いから大きくて立派な犬になるね、と言われた。

 あんまり大きくなっても困るなあ、とか思いながら、適当なところで、ありがとうございました、とその場を離れ、あまり人がいない駐車場脇の緑地に移動する。

 サラミは、どうやら探索するのが大好きなようで、放っておけばいつまででもフンフンと匂いを嗅いでいそうだった。

 でも、行くよ、と声をかけると、僕を見上げてから僕に着いてくる。

 いい犬だ。

 ひとしきりぶらぶらしてから、僕たちは帰ることにした。

 

 部屋に着くと、僕は犬用の柵でサラミ専用のコーナーを作った。

 でも、閉じ込めておくのはかわいそうな気がして、入り口は開けておいた。