アパートに着くと、サラミを部屋に下ろしてやった。
サラミは、早速そこら辺の匂いを嗅いで探索を始めている。
どうやら、好奇心も強いらしい。
さて、まずは水と餌入れか。
友人のメモによると、軽い入れ物はすぐに引っくり返るので重いほうがいいらしい。
取り敢えず、少しでも重そうな瀬戸物の器に水を入れて床に置いた。
器を置いた音で気付いたサラミは、早速駆けてきて水を飲み始める。
喉が乾いていたのか、ひとしきり水を飲むと、サラミは「何してくれるの?」とばかりに笑顔で僕を見上げる。
あまりの可愛さにそのまま眺めていると、今度は僕を見上げたまま跳び跳ねたりくるくる回ったりし始めた。
その可愛さに負けて、僕はしゃがんでサラミを撫でた。
サラミは笑顔で尾を振りながら僕に身体を擦り寄せてきて、跳んだり寝転んだりしている。
サラミ、今日からよろしくね。
分かったのか、分かってないのか、サラミは相変わらずだ。
ただひとつ、確かなことは、今日からはここで二人で暮らすということだ。
さて、と。
サラミの寝床を用意しないと。
僕は部屋の片隅にあった段ボールの箱を見つけ出した。
その箱を、まだ小さなサラミが出入りしやすいように、入り口のところをハサミで切り取り、水入れの脇に置いた。
そして、僕はその中に親犬の臭いが付いたタオルを入れた。
サラミは、段ボールの箱に気付いて、早速寄ってきた。
そして、タオルの匂いを嗅いで、家族のことを思い出した様だった。
タオルの匂いを嗅ぎながら、時々上を向いて、クーン、クーン、と鳴いた。
僕は、サラミを撫でながら、これからは僕がいるよ、と話しかけた。
サラミは、時々僕のことを見上げるけど、相変わらず鳴いている。
僕は、しばらくはサラミを撫でていたが、ふと思い出して、友人から貰った餌を餌入れの代わりの皿に入れてサラミの前に置いた。
餌に気が付いたサラミは、皿を覗き込んで、一口、そして、もう一口食べた。
それで、もう、食べるのは気が済んだのか、また、クーン、クーン、と、鳴き始めた。
大丈夫だよ。
僕がいるからね。
今日から、ここがサラミの家だよ。
その日は、サラミが泣き疲れて眠るまで、ずっとサラミの側で、その小さな背中を撫でていた。
何やらこそばゆい感覚、そして、生暖かい感触で目が覚めた。
わあっ、と。
目の前には、サラミのどアップがあった。
どこをどうやってよじ登ったのか、布団の上まで上がってきたサラミが、僕の顔の匂いを嗅いだり舐めたりしている。
おはよう、サラミ。
僕は、サラミを布団の中に引き込んだ。
もふもふとした感触、同時に、ぬるっとした感触…!
え…!
がばっと起き上がり、サラミを見ると、毛の一部が濡れている。はっと、床を見ると、色の付いた水溜まりがそこにあった。
ああ…。
自分で作った水溜まりに落ちたのか。
取り敢えず、サラミの身体を拭いてやり、そして床も拭いた。
トイレも教えてやらないとだな。
今日は日曜日。
今日中に色々な支度を済まさないと。
その前に、朝ごはんだ。
いつもなら、テレビに向かって独り言を言いながら食べる部屋の中に、サラミが食べる音が響く。
一人じゃない食事もいいもんだな。
これからは、毎日そうなんだけど。
そんな事を思いながら食べていると、サラミは食事を終えたらしい。
そして、まだ食べ足りないのか、僕のご飯を欲しがり始めた。
だめ。
僕は、サラミの目のすぐ前で、がっと口を開けて言った。
サラミは、一瞬、ビクッと動きを止めたあと、僕の朝食に直進するのをやめた。
その隙に、僕は皿を持って立ち上がり、食べながら台所に向かう。
色々教えないと。
そう思いながら振り替えると、サラミは自分の皿を数回舐めてから、僕の足元へ駆けて来るところだった。
そして、相変わらずはしゃいだり構ってもらおうとアピールしたりしている。
僕は、手早く皿を水に浸け、しゃがんでサラミの相手を始めた。
さあ、今日は買い物に行こうか。
そうサラミに話しかけると、サラミはうんうんと頷いて喜んでいるように見えた。