駆け抜ける森 見上げた空

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サラミと僕と ①サラミ

サラミは僕が飼っている犬の名前だ。

なぜサラミかと言っても、特別な理由はない。

初めてこいつの顔を見たときに、なんとなく浮かんだのだ。

それに、本人も気に入っているようなので、そう呼ぶことにしている。

その証拠に、名前を呼ばれると激しく尾を振って嬉しそうだ。

このサラミと出会ったのは、友人の家に遊びに行ったときの事だ。

 

 

仔犬が産まれたから見に来なよ、というその友人に、ただ見に行くだけのつもりで行ったのだが、庭の中を縦横無尽に駆け回る仔犬たちに、僕はいきなり魅了されてしまった。

門を入ると、そこらで遊んでいた仔犬たちが、一斉に集まってきた。

そして、尻尾を振ってはしゃぎながらこちらを見ている。

多分、今が一番可愛い時期なのだろう。

それが、何匹もいるのだからたまらない。

その場で、ついついしゃがみこんで手を伸ばしてしまう。

おそらく、親犬がどちらも雑種なのだろう。

黒のブチやら、茶色のブチ、全身黒や茶色など、色々な種類がいる。

集まってきた仔犬たちを順に撫でたりしているうちに、同じように見えていた仔犬たちにも、それぞれの性格の違いがあるのが見えてきた。

僕の顔を見て、かまってもらおうとアピールする子、その子の邪魔をしようとする子、私の靴紐で遊び始める子、新しい何かを見つけて駆けて行く子、最初から私の元には来ないで、遠くでずっと一人遊びしてる子。

今日いるのは全部で五匹だ。

どの子もそれぞれに魅力的だった。

 

「よかったら、どれでも持ってってよ」

すっかり仔犬たちの魅力に取り込まれてしまった僕の様子を見ていた友人が言った。

「今なら選び放題だよ」

うーむ。

独り暮らしの僕に飼えるだろうか。

「大丈夫だよ、水と餌だけやっておけば」

まずい。

読まれている。

うーむ。

でも、散歩はどうするんだ。

「小さいうちは家のなかで放しといたら?

大きくなったら、庭で走れるようにしておけばいいよ。」

うーむ。

しかし、なんでバレてるんだ?

その時、友人は、ははは、と笑った。

「さっきから、ずっと一人言喋ってるよ」

え、そうだったのか。

そりゃ、バレるわけだ。って?

いつの間にか飼うことになってる?

「え、だって、飼うでしょ?」

そう言いながら、ほら、と、友人は自分の飼ってる犬に使っているランニングチェーンの紹介をしている。

 

そうか。

僕は犬を飼うのか。

そう思ってから改めて見ると、ただ可愛くて見ていた時とは、少しだけ違って見えてきた。

飼うとしたら、どれ?

ずっと一緒にいるとしたら、どれ?

取り敢えず、自分に関心を示さないやつは論外かな。

でも、一人遊びもできた方が、僕がいない間も寂しくないか。

さんざん悩んだ挙げ句、かまってほしくてずっとじゃれついていた、薄茶色に白い斑点のを抱き上げた。

 

選ばれたのを、知ってか知らずか、そいつは私の顔を猛烈に舐めている。

足元には、相変わらず私の靴紐で遊ぶ子、そいつの邪魔をする子がいる。

「決まったみたいだね」

友人は、そう言ったあとで、ちょっと待ってて、と言い残して、一旦家の中に入り、またすぐに出てきた。

何かを入れた袋を持っている。

「夜、きっと寂しがるから」

そう言うと、その袋を差し出す。

親犬の臭いが付いたタオルらしい。

親や兄弟から離れて寂しがる仔犬も、これがあると、落ち着くのだそうだ。

「ドックフードも入れとくけど、早目に買ってあげてね」

あとは、自分でも調べてねと、一枚の紙を渡された。

幾つかの注意書きを友人がまとめておいたものらしい。

良く見ると、玉ねぎはダメ、牛乳はダメ、とか書いてある。

そうか。

牛乳は駄目なんだな。

帰ったら、牛乳をあげようと思っていたところだったので、少しがっかりした。

困ったら相談してねと言う友人と、残りの仔犬たちに見送られて、僕は家へと歩き出した。

 

そういえば、ウチってペットOKだったよなあ。

僕は、今借りている家のことを思い出した。

ちっちゃいけど庭もあるし、ちゃんとしつければ、きっと大丈夫だろう。

そのうち大家さんに挨拶にいこう。

相変わらず、仔犬は私に抱えられたまま私の顔を舐めている。

そんな仔犬を見て、ふと気がついた。

名前、なんにしよう?

僕は立ち止まり、腕の中の仔犬をじっと見つめた。

茶色に白い斑点…何かに似てるな。

「…サラミ」

試しに、思いついた言葉を仔犬に投げ掛けてみた。

仔犬は、まるでその名前が気に入ったようにはしゃいでいる。

よし、今日からお前はサラミだ。

腕の中ではしゃぎ続ける仔犬に話しかけつつ、いつの間にか少し日が傾き始めた街を歩いた。