「うわぁ…」
広い園内は、まるで日本中の秋を集めてきたかのように、見事に染まっていた。
「すごいね」
「ほんと、ね」
頃よく傾いた陽射しが、園内に黄色い光を投げかけ、赤や黄色に色付いた樹々や、空気までも黄金色に染め上げている。
「前に来たときには、ロウバイが咲いてたよね」
彼女が、最後に二人で来た時のことを話始めた。
そう。
あれから、もう、どれだけの時間が過ぎたのだろう。
「そうだね。
確か、雪が積もってて雪だるまがたくさんあった」
「え?
そうだったかしら」
あの時は、朝まで降っていた雪が上がり、澄みきった空からは冬の柔らかな陽射しが広い園内に降り注いでいた。
空気中に残った水蒸気の粒に光が反射してキラキラと輝いていたのを覚えている。
「ねえ、見に行かない?ロウバイ」
「咲いてないから、たぶん分からないよ」
ロウバイが咲くのは春先、植物音痴の二人が咲いてない花の木を探すのは、多分無理だろう。
でも、確かに探したい気持ちはあった。
「また来ようか」
「そうね」
あの日、ここでまた会おうねと言って、それきりになっていた。
いや、それが今日なのかも知れないが。
話しながら歩いていると、大きな木蓮の前に来ていた。
「咲いてなくても、これは分かるわね」
「そうだね」
二人でここに来るようになって覚えた植物が幾つかある。
この木蓮もそうだ。
「大きすぎて、コブシにしか見えない」
「でも、やっぱり花は木蓮だったわね」
木蓮とコブシはよく似ている。
よく見ると、木蓮は花が肉厚で、コブシの方は華奢な印象だ。
しかし、この木蓮は木自体が大きすぎて花が小さく華奢に見えてしまうため、コブシのように感じてしまう。
その木蓮も、他の場所なら咲いていないと私たちには分からないだろう。
池の畔に出ると、池を囲むように植えられた紅葉や楓が織り成す赤や黄色の重なりが、斜陽を受けて輝いていた。
それが更に水面に映り、まさに「一面の秋」という風景を造り出している。
「良いときにきたね」
「そうね」
言いながら、二人で池に渡された橋に差し掛かる。
水面には、流れて来た赤や黄色の葉が水面に映る空の青さと見事なコントラストを描いている。
岸辺に近いところには、次々と流れてくる葉が織り重なるようにして新たな岸辺を作り出していた。
「昔、桜が咲いてるときにも来たよね」
「そうだね。あの時は桜が流れてたね」
四季折々の花が咲くことで有名なこの公園は、桜の名所でもある。
桜の季節には、百種類を越えるサクラの花が次々と咲き乱れ、桜色の幻想的な世界に包まれる。
そう。
二人でそこにいたのも昔の話。
「ねえ、行こ」
「ああ、そうだね」
彼女に促されて、橋を後にした