最終エイドから、もう30分は走っただろうか。
辺りは既に闇に覆われていた。
大きく左にカーブを切り、道幅のある坂道を下っていると、この辺りに住む人だろうか、車や人がすれ違うようになった。
その彼らが、「頑張れ」と声を掛けてくれる。
ありがとうございます、と、声だけは元気に返事をする。
いや、実際にはどれだけ声が出ていたのか分からないが。
坂を下りきると、高野の街に入った。
ここからゴールまでは緩い上りになる。
街を照らす明かりで、次第にコースが明るくなり、道をゆく人の数も増えてきた。
ここからゴールまでは約3kmのはずだ。
もう、水も要らないだろう。
そう思い、先程補充した水も、全部道路の排水溝に流した。
少しでも軽くして足の負担を減らしたかった。
道も登りになっていたので、走るのは止めて全力の早歩きに切り替えた。
あと少し。あと少し。
高野の町は、進むにつれて人が増えてきた。
多分、観光客なのだろう。外国の方も多く、次々と声を掛けてくれる。きっと、Japanese is crazyとか思ってるのだろう。珍しいものを見る好奇の目で私たちを見ている。
でも、それは日本人の観光客も一緒だ。
いつの間にか、多くの人たちに見守られながら夜の町の中をゴールを目指している。
一際大きな歓声。
見ると、先程の下り坂で追い越したランナーが横を追い越してゆく。
でも、もうこれっぽっちも走りたくない。
ここまで来たら順位は関係なかった。
ただ、完走あるのみだ。
腕のGPS時計で残りの距離と時間を確認しながら全力で歩く。
それでも心配なので、コース誘導のスタッフがいると、残りの距離を確認しながら進む。
ここまで来て制限時間に間に合わないなんてしたくない。
でも、もう、きっと大丈夫。
歴史ある古い町並み。
薄明かりに照らし出された道。
その両脇の暗がりに輝く沢山の瞳に見守られながら歩く。
誘導されるままに横断歩道を渡ると、そこは真っ暗な空間だった。
ゴールのある壇上伽藍の参道に入ったのだ。
「お疲れ様!」「あと少しですよ!」
真っ暗な参道の両側に並んだ、スタッフの方や応援の方々から沢山の声援が飛んでくる。
手を上げて応えたり会釈したりしながら進んでいくと、神々しいまでにライトアップされた根本大塔が、そして、その横のゴールが見えてきた。
最後くらい走るか…。
弘法大師が高野の地に入って最初にその整備に着手した場所であると言われている壇場伽藍。
ライトアップされたそれらの建物の中で、ひときわその存在を荘厳な光とともに示している根本大塔の前に設置されたゴールに向けて、最後の小さな階段を、精一杯の小走りで駆け上がる。
ゴール。
そして、そのまま根本大塔へ上がり、一礼。
根本大塔の階段の上で、お賽銭を入れて手を合わせる。
色んな事があった。
そして、ここまで辿り着くことができた。
これも弘法大師の御導きかもしれないな、などと少し本気で思った。
感謝。
弘法大師様に。
大会を支えてくれた人たちに。
森や自然、そして、すべてに。