一人抜き、また、一人抜いた。
道は一度大きく下ってから天狗倉山への登りに差し掛かる。
そうしているうちに、あることに気がついた。
足の着き方さえ間違わなければ、それ程痛くない。
もちろん、間違えれば激痛が走るが。
辺りにはツツドリの声が響いている。
ツツドリと言えば、この時期、5月から6月にかけて、高尾連山の城山付近でよく鳴き声を聞く鳥だ。
ホホ、ホホ、という独特なその声は、小さいながらも静かな山の中によく響く。
ああ、ツツドリってこの山にもいるんだな。
そんな事を思いながらも進む。
また、一人抜いた。
天狗倉山を下ると、直ぐにコース第二の壁、高城山(たかぎやま)の斜面に差し掛かる。
一人の選手の背中が迫ってくる。
見ると、昨夜同じ部屋に泊まった相部屋仲間だ。
彼を追い抜くのも気が引けたが、一緒に潰れる訳にはいかない。
このレースでは、ほば間違いなく私がボーダーラインだった。
その私に追い越された彼の前途は明るくない。
しかし、そんな想いを絶ちきるように、ストックを両手に悪戦苦闘する彼にゴールで会いましょうと声を掛け、急斜面を追い越す。
これで8人。
高城山を下ると、一人の選手が立ち止まって食料を補給している。
声を掛けると、動けなくなったのでリタイアを考えているという。
おそらく、目の前の小山を越えれば次のエイド、武士ヶ峰だ。
救助は不要との事だったので、あと少しですよと彼を後にする。
これで9人。