駆け抜ける森 見上げた空

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Kobo Trail 編 ④応急処置

 左の足首に痛みを感じる。

 試しに、左足で地面を押してみる。

 …っ!

 激痛が身体を駆け抜ける。

 すぐには動けそうもないので、とりあえずトレイル脇の茂みに、ズリズリと身体を移して道を空ける。

 

 まもなく、ついさっき追い越した選手がトレイルを駆け降りてゆく。

 痛みが治まるまでは、じっとしてるしかないだろう。

 「どうしました?」

 何人かの選手が通りすぎた後、誰かが声をかけてきた。

 さっきのスイーパーさんだ。

 転んで動けないことを伝えると、携帯電話の事と合わせてすぐ先のエイドに伝えると言い、他の選手を追って行った。

 

 スイーパーさんが去った後、これからどうするか考えた。

 棄権するか。

 続行するか。

 何れにしても、次のエイドまでは自力で動くしかない。

 私は、背負った荷物を下ろし、靴を脱ぎ靴下を下ろした。

 足首は、あり得ないくらいに腫れ上がっていた。

 

 私は、数ある装備の中からテーピングを取り出した。そして、これまでに何度も繰り返してきた方法で足首を固定する。

 こういった非常用の装備は、普段は全く必要ないが、何か起きてしまったときには非常に役に立つ。勿論、使わないで済むに越したことはないのだが。

 足首の固定が終わり、靴下を履いていると、一人の人が山道を上がってきた。

 大会スタッフの方が様子を見に来てくれたのだ。

 彼は、携帯電話が届いていること、そして、エイドまではあと少しであることを教えてくれた。

 「動けそうですか」

 「…なんとか」

 スタッフの方の問いにそう答えると、その人はエイドで待ってると告げてトレイルを戻っていった。

 私は、彼を見送ったあと、荷物をおさめたバックパックを背負って立ち上がった。

 いつもの捻挫なら、これで行けるはずだ。

 

 立ち上がった途端、左足の踵が足首にめり込むような痛みを感じる。

 いつもの捻挫とは少し違うようだ。

 でも、立てない訳ではない。

 力の入らない足で、よたよたとトレイルを降る。

 数百メートルをようやっと移動して、なんとか最初のエイドがある九十丁まで辿り着いた。