前夜の予報からは打って変わり、空には青空が広がっていた。
山の中で迎える朝は、まさに凛とした少し張り詰めたような清々しい空気に包まれ、これから山に向かう選手たちの気持ちを更に引き締めるようだった。
スタートとなる境内には、これより50kmを越える旅に出る選手と、それを送り出す僧侶で溢れんばかりだった。
そう。今日はトレイルランニング大会。この名刹も、今朝だけはこれから始まる特別なレースのスタート地点として、早朝から普段にはない静かな熱気に包まれていた。
この大会は、高野山開山1200年を記念して開催され、弘法大師が高野山の地を発見するに至った道程を辿る55kmのコースが設定されている。
伝承に残る「熊野より南へ一日、西へ二日」の旅は聖なる旅路であり、回峰行でも使われている大峯奥駆道を通ることからも、参加する選手は白を基調としたウエアの着用が義務付けられている。また、その貴重な修験道の山を保存するために、レースに参加出来るのは100人に限られ、環境との共生についても特段の配慮がなされているらしい。地元と仏僧会、公共が見事にタッグを組んで開催されている。
その一方で、この大会は全国のトレイルランナーが目標としているUTMF、ウルトラトレイルマウントフジに参加するために必要なポイントが得られる対象ともなっていることから、その大会自体が持つ魅力と相まって、一部の選手からは非常に人気の高い大会にもなっている。
この大会で使われるコースの特徴は、なんといってもその険しさであろう。
とくに、全行程を走破する「K to K」では、序盤で大峯奥駆道を走ることになる。そして、この時コース最高峰の大天井ヶ岳も通過する。
一見、この序盤が最も厳しく感じるが、過去に参加した選手は口を揃えて小南峠以降が厳しいと言う。実は、このコースの核心部は、この小南峠から武士ヶ峯までの区間らしい。この細かいアップダウンがダメージを残すのだろうか。
この過酷なトレイルを走りきるために、私はいつもペースの配分表をつくる。
マラソンなら概ね1km5分など全体を通しての想定がつけられるが、トレランではそうはいかない。
山道などを走るトレイルランニングでは、コースごとに、もっと言えばコースの部分ごとに様々な特徴がある。
「ヤマレコ」というサイトでは、何人もの登山者が様々な山へ行った記録を紹介している。トレイルランナーの中にも参加している人がいて、レースの記録を公開している
場合がある。
私は大抵ここで過去に参加した選手の記録を参考に、自分の行程表をつくっている。
このレースでは、目標を完走に置き、少し前にゴールするパターンと併せて作る。
私の場合、平均的には時速5km 程度。
これに対し、私がサンプルとして使用した選手の記録では、ラストの7km、舗装路の下りに2時間近くを要している。
もしかしたら、コースの最終盤に非常に厳しい下り坂があって、脚が終わった後では歩くのもキツいのかもしれない。