駆け抜ける森 見上げた空

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「みゃう」⑬春の幻

みゃうがいない夏は、あっという間に過ぎていった。

秋になり、次第に木々の葉が色づき、風に舞う様子を、誰もいない部屋の中から眺めた。

やがて、冬枯れの木々を冷たい北風が揺らすようになっても、それは変わらなかった。

そして、季節は流れ、また、春が来た。

 

 

窓の外は、春の陽射しが緩やかに降り注いでいる。

木々の枝には新緑が輝き、新しく生えてきた草の上に木漏れ日を創り出す。

再び、新しい生命が芽吹き、新しい生命が動き出す季節を迎えていた。

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その日は、珍しく体調をくずし、朝から寝込んでいた。鼻水が出ても、花粉症かと油断していたら、本当に風邪をひいていたらしい。

しかし、窓からの光に誘われて、窓際に来て外を眺めていた。

春の光が降り注ぐ小さな庭には、今にも生まれたてのみゃうが飛び出てきそうだった。

 

そのときだった。

ふわふわしたものが、草の間から現れた。

白地に黒の模様。ハート型の斑点。

…みゃう?

その少し小柄な猫は、ゆっくりと歩いてきて、窓越しに覗く私の前に立ち止まった。

そして、私を見上げた。

 

その猫は、春の光のなかで、淡い光に包まれているように見えた。

それは、降り注ぐ柔らかな光のせいなのか、溢れてくる涙のせいなのか、自分には分からなかった。

小さな庭の真ん中で、私を見上げたまま、猫は小さく口を開いた。

みゃう、と鳴いているように感じた。

 

その顔は、笑っているようにも見えた。

わたしは、何もできないままに立ち尽くし、猫もまた、じっと私を見上げていた。

ありがとう、あなたに会えて良かったよ。

どこかから、そんな言葉が聞こえてきたような気がした。

 

私は、何もできないまま、庭の猫を見つめていた。

猫もまた、そのまま私を見上げていた。

やがて、涙で霞んだ視界のなかで、猫はゆっくりと立ちあがった。

そして、白く柔らかい光に包まれたまま、草の間へと消えていった。

 

猫がいなくなった庭には、ただ静かに、柔らかな光だけが降り注いでいた。

そこだけが特別な優しい空間に思えた。

病気のことも忘れて、それからしばらくの間、一人で庭を見ていた。