みゃうがいない夏は、あっという間に過ぎていった。
秋になり、次第に木々の葉が色づき、風に舞う様子を、誰もいない部屋の中から眺めた。
やがて、冬枯れの木々を冷たい北風が揺らすようになっても、それは変わらなかった。
そして、季節は流れ、また、春が来た。
窓の外は、春の陽射しが緩やかに降り注いでいる。
木々の枝には新緑が輝き、新しく生えてきた草の上に木漏れ日を創り出す。
再び、新しい生命が芽吹き、新しい生命が動き出す季節を迎えていた。
その日は、珍しく体調をくずし、朝から寝込んでいた。鼻水が出ても、花粉症かと油断していたら、本当に風邪をひいていたらしい。
しかし、窓からの光に誘われて、窓際に来て外を眺めていた。
春の光が降り注ぐ小さな庭には、今にも生まれたてのみゃうが飛び出てきそうだった。
そのときだった。
ふわふわしたものが、草の間から現れた。
白地に黒の模様。ハート型の斑点。
…みゃう?
その少し小柄な猫は、ゆっくりと歩いてきて、窓越しに覗く私の前に立ち止まった。
そして、私を見上げた。
その猫は、春の光のなかで、淡い光に包まれているように見えた。
それは、降り注ぐ柔らかな光のせいなのか、溢れてくる涙のせいなのか、自分には分からなかった。
小さな庭の真ん中で、私を見上げたまま、猫は小さく口を開いた。
みゃう、と鳴いているように感じた。
その顔は、笑っているようにも見えた。
わたしは、何もできないままに立ち尽くし、猫もまた、じっと私を見上げていた。
ありがとう、あなたに会えて良かったよ。
どこかから、そんな言葉が聞こえてきたような気がした。
私は、何もできないまま、庭の猫を見つめていた。
猫もまた、そのまま私を見上げていた。
やがて、涙で霞んだ視界のなかで、猫はゆっくりと立ちあがった。
そして、白く柔らかい光に包まれたまま、草の間へと消えていった。
猫がいなくなった庭には、ただ静かに、柔らかな光だけが降り注いでいた。
そこだけが特別な優しい空間に思えた。
病気のことも忘れて、それからしばらくの間、一人で庭を見ていた。