駆け抜ける森 見上げた空

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「みゃう」⑨発病

その日は、夏も後半に差し掛かった、よく晴れた金曜日だった。

昼間の強い日差しも緩んだ夕方、繁華街へと向かう仲間の誘いも緩く断り、家への道を急いでいた。

途中、少し食欲が落ちたみゃうのために、猫缶などを買うのは忘れなかった。

涼しくなった風が心地よかった。

 

 

アパートの前では、その日も大屋さんが車の手入れをしていた。

ほんと、好きだよなあ、と心の中で呟きながら、口では「こんにちは」と声をかける。

大屋さんは、相変わらずの微かな笑顔で私に応えると、再び作業に戻った。

今日は、荷物は鞄の中だから見つかる心配はない。

「ただいま、みゃう」

玄関の扉を開けて中に入る。

微かな違和感を感じながら靴を脱ぐ。

そういえば、いつもなら足元に擦り寄ってくるみゃうの姿がない。

「みゃう?」

呼び掛けると、部屋の奥からごそごそ音が聞こえてくる。

部屋に入ると、みゃうが段ボールの箱から這い出してよろよろと歩いてくるのが見えた。

「みゃう?」

呼び掛けると、みゃう~っと小さく鳴き、それでも足元まで歩いてきた。

え?

足元まで来ると、いつものように身体を擦りつけることなく、みゃうはそのままうずくまった。

「みゃう?」

もう一度呼び掛けると、みゃうは、みゃうっと小さく鳴いた。

足元にうずくまり、目を閉じたまま。

しゃがんで、そっとみゃうに触れてみた。

トクトクと脈が早い。呼吸も少し荒いようだ。

具合が悪かったんだ。

食欲がなかったのも、外に出なくなったのも。