その日は、夏も後半に差し掛かった、よく晴れた金曜日だった。
昼間の強い日差しも緩んだ夕方、繁華街へと向かう仲間の誘いも緩く断り、家への道を急いでいた。
途中、少し食欲が落ちたみゃうのために、猫缶などを買うのは忘れなかった。
涼しくなった風が心地よかった。
アパートの前では、その日も大屋さんが車の手入れをしていた。
ほんと、好きだよなあ、と心の中で呟きながら、口では「こんにちは」と声をかける。
大屋さんは、相変わらずの微かな笑顔で私に応えると、再び作業に戻った。
今日は、荷物は鞄の中だから見つかる心配はない。
「ただいま、みゃう」
玄関の扉を開けて中に入る。
微かな違和感を感じながら靴を脱ぐ。
そういえば、いつもなら足元に擦り寄ってくるみゃうの姿がない。
「みゃう?」
呼び掛けると、部屋の奥からごそごそ音が聞こえてくる。
部屋に入ると、みゃうが段ボールの箱から這い出してよろよろと歩いてくるのが見えた。
「みゃう?」
呼び掛けると、みゃう~っと小さく鳴き、それでも足元まで歩いてきた。
え?
足元まで来ると、いつものように身体を擦りつけることなく、みゃうはそのままうずくまった。
「みゃう?」
もう一度呼び掛けると、みゃうは、みゃうっと小さく鳴いた。
足元にうずくまり、目を閉じたまま。
しゃがんで、そっとみゃうに触れてみた。
トクトクと脈が早い。呼吸も少し荒いようだ。
具合が悪かったんだ。
食欲がなかったのも、外に出なくなったのも。