駆け抜ける森 見上げた空

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サラミと僕と ③初めてのお出かけ

僕は部屋を出ると、アパートを振り返った。 ここの良いところは幾つかある。 古いけどきれいなこと。 小さいけど専用の庭がついてること。 駐車場がついてること。 他を知らないけど、大家さんもいい人だと思う。 もし、サラミが大きくなったら、あの庭で飼…

サラミと僕と ②二人暮らし

アパートに着くと、サラミを部屋に下ろしてやった。 サラミは、早速そこら辺の匂いを嗅いで探索を始めている。 どうやら、好奇心も強いらしい。 さて、まずは水と餌入れか。 友人のメモによると、軽い入れ物はすぐに引っくり返るので重いほうがいいらしい。 …

サラミと僕と ①サラミ

サラミは僕が飼っている犬の名前だ。 なぜサラミかと言っても、特別な理由はない。 初めてこいつの顔を見たときに、なんとなく浮かんだのだ。 それに、本人も気に入っているようなので、そう呼ぶことにしている。 その証拠に、名前を呼ばれると激しく尾を振…

ゴールデン・ダスト ⑤街灯

やがて、周り中の世界を黄金色に輝かせていた夕陽が、遠い町並みの向こうへと消えて行き、その最後の赤い光が届かなくなると、辺りは夜の街へと姿を変えていった。 黄金色に輝く奇跡の時間は、日没と共に終わりを告げ、風も治まった園内は、静かな空気に包ま…

ゴールデン・ダスト ④黄金色の時間

次の瞬間。 突然、強い風が吹いた。 「え…」 地面に積もっていた落ち葉が舞い上がり、枝に残っていた葉は一斉に樹々を離れ宙を舞う。 折からの夕陽に照らされて、空中で輝く黄葉。 ゴールデン・ダスト。 銀杏のゴールデン・ダスト。

ゴールデン・ダスト ③並木道

広い園内の一番奥には、銀杏の並木道がある。 その並木道は、まさに今がそのピークとでも言うかのように、地面に近いところから枝の先端まで樹々の葉が黄色く染まっていた。 そして、地面の上には、やはり黄色く染まった葉が降り積もり、辺り一面が銀杏の色…

ゴールデン・ダスト ②都市公園

「うわぁ…」 広い園内は、まるで日本中の秋を集めてきたかのように、見事に染まっていた。 「すごいね」 「ほんと、ね」 頃よく傾いた陽射しが、園内に黄色い光を投げかけ、赤や黄色に色付いた樹々や、空気までも黄金色に染め上げている。

ゴールデン・ダスト ①カフェ

時計の針は午後2時を少し過ぎていた。 薄暗い店内には、今淹れたばかりであろう珈琲の香りが漂っている。 他の客の会話が適度に打ち消される程度に流れているエリックサティを聞き流しながら、私は注文したアールグレイが運ばれてくるのを待っていた。 この…

Kobo Trail 編 ⑮いつか、きっと

レースから1ヶ月。 私は固定された足で歩いていた。 病院の診断は、剥離骨折。 全治2ヶ月らしい。 この足でよく走りきれたものだと、つくづく思う。

Kobo Trail 編 ⑭高野の町

最終エイドから、もう30分は走っただろうか。 辺りは既に闇に覆われていた。 大きく左にカーブを切り、道幅のある坂道を下っていると、この辺りに住む人だろうか、車や人がすれ違うようになった。 その彼らが、「頑張れ」と声を掛けてくれる。 ありがとうご…

Kobo Trail 編 ⑬最終区間

日没間際の陰り行くロードの先に、エイドらしきものが見える。 あれが天狗木峠のエイドか。 見えるのになかなか近付けないもどかしさの中で、もがくようにして進む。

Kobo Trail 編 ⑫林道をぶっ飛ばせ

林道だ。 ここまで来れば、もう険しいトレイルはない。 さあ、ぶっ飛ばすぞ。 実際には、ぶっ飛ばすと言うには程遠いスピードだが、平坦な分、確実に速い。 淡々と進んで行くと、前方のランナーに追い付いた。

Kobo Trail 編 ⑪スイーパー

紀和隧道上のチェックポイントに着くと、そこにいた長身の男性か私を見て笑顔を見せた。 序盤、転倒した時にお世話になったスイーパーの方だ。 「君がここまで来てくれてよかったよ」 そう言う彼にお礼を言いつつ、時間を確認する。 「ぎりぎりですか」 「ぎ…

Kobo Trail 編 ⑩関門を超えて行け

このレースでは、天辻峠から先は、エイドの通過に対して関門時刻が設定されている。 最初の関門になる、ここ天辻峠の関門時刻は16:00だ。 しかし、昨日のブリーフィングでも説明があったとおり、関門時刻をギリギリに通過したのでは、まず時間内の完走は難し…

Kobo Trail 編 ⑨乗鞍の壁

森の中のトレイルをアップダウンしながら更に進んでいくと、ロープが掛けられた斜面が続く険しい道に出た。 このコース最大の難関、「乗鞍の壁」だ。 最大斜度が40度を越えるとロープがつけられると聞いたことがある。 その、まさに崖のような斜面を、何本も…

Kobo Trail 編 ⑧エイドから灼熱の林道へ

武士ヶ峰のエイドに着くと、まず、小山の手前にリタイア予定者がいることを伝えた。 スタッフの方が、お疲れ様、ありがとうございますと言って地元の特産品らしい素麺を差し出した。

Kobo Trail 編 ⑦壁を越えろ

一人抜き、また、一人抜いた。 道は一度大きく下ってから天狗倉山への登りに差し掛かる。 そうしているうちに、あることに気がついた。 足の着き方さえ間違わなければ、それ程痛くない。 もちろん、間違えれば激痛が走るが。

Kobo Trail 編 ⑥揺れ動く想い

ふうっ。 大きく息をついてから、また歩き出す。 とにかく、目の前の一つひとつをクリアしていこう。 何としてでも、ゴールまでたどり着かなければ。 先行する選手を追って、目の前の直登をよじ登る。 時には斜面に生えている草を掴んで、一歩、一歩、身体を…

Kobo Trail 編 ⑤行くか、やめるか

ふうっ、と息をついて座り込む。 「お疲れさまでした。大丈夫ですか?」 スタッフの方が、これですね、と、私のスマホと名物の柿の葉寿司を手渡してくれた。 よかった。 1つ、心のつかえが取れた。 時計を見ると、ちょうど8時。 一体、どれだけ飛ばすとこ…

Kobo Trail 編 ④応急処置

左の足首に痛みを感じる。 試しに、左足で地面を押してみる。 …っ! 激痛が身体を駆け抜ける。 すぐには動けそうもないので、とりあえずトレイル脇の茂みに、ズリズリと身体を移して道を空ける。

Kobo Trail 編 ③転倒

コースは再びトレイルに戻る。 今度は急登だ。 最初は階段だったが、次第に大きな岩の続く山道へと変わる。 この四寸岩山へと続く険しいトレイルでは、スピードを落とさないように大股で、一歩ごとに両手で膝を押しながら岩の段差を登る。 その段差が一息つ…

Kobo Trail 編 ②快晴の朝

レース前日、ブリーフィング(競技上の注意点及びコースの最新情報説明)に続き、選手は本堂に集められた。続いて大勢の僧侶たちも本道に入り、そしておもむろに護魔焚きの祈祷が行われた。 読み上げられていく数々の真言に続いて祈祷の内容が読み上げられる。…

Kobo Trail 編 ①弘法大師の道

前夜の予報からは打って変わり、空には青空が広がっていた。 山の中で迎える朝は、まさに凛とした少し張り詰めたような清々しい空気に包まれ、これから山に向かう選手たちの気持ちを更に引き締めるようだった。 スタートとなる境内には、これより50kmを越え…

「少年時代」⑤青空に抱かれて~背面飛び~

彼と過ごしたのは、子供が増えて教室が足りなくなり、町の予算が間に合わないために本設として使われていたプレハブの校舎だった。気温などは教室としての基準を満たしていたらしいが、実際には、輻射熱で夏は暑く、熱放射で冬は寒かった。

「少年時代」④翔べ、グライダー

さあ、君の番だよ、というように彼は正面から見ている。 彼がやって見せたように、後ろの空間に身を任せてみた。

「少年時代」③鉄棒の大技

砂場の側には鉄棒や雲梯があった。どちらも最初はぶら下がっている事さえ出来なかったが、どちらも何かのきっかけで楽しくなった。それこそ、身体の使い方のイメージが閃いたのだろう。それからはクラスの中でも得意な方に入った。

「少年時代」②慰霊塔と砂遊び

新体育館の隣には、取り壊しや移設を免れた慰霊塔があった。 その慰霊塔は、大きな石を積んだような小山の上にあって、周囲よりも少し高いところに建てられていた。塔の周りは大きな樹木に囲まれていて、その一郭だけは元々沼地だった校庭とはまた違う世界を…

「少年時代」①校庭の四季と体育館

子供の頃はというと、色々な事がすべて新鮮で、すべてが興味の対象だった。すべての事が色鮮やかに飛び込んできて、それらは未だに記憶のどこかに残っている。時間の経過もゆっくりで、あの僅か5分の休み時間にも、よくまあ遊びまくったものだと思う。

「家路」③受験勉強と記憶の方法

ふと脇を見ると、高校生だろうか、参考書のようなものを広げて試験勉強をしている。 試験勉強といえば暗記だが、私は暗記をすることがとても苦手だ。しかし、人に言わせると、私は色々なことをよく覚えているという。

「家路」②優先席と専用車両

電車には優先席というのがある。もちろん、御老人や妊婦さん、身体の不自由な方のために用意された席だ。優先席の前に立つと、大抵そこには「携帯電話の電源を切る」ことが書かれている。しかし、多くの人は平然と携帯電話を操作している。