駆け抜ける森 見上げた空

ツイッターで掲載中の『連続ツイート小説』おまとめサイトです。

サラミと僕と ⑩クリスマス・イヴ

 朝目が覚めると、その気配を感じてサラミがいつものように僕を誘いに来た。

 ねえ、散歩に行こうよ、早く行こうよ、まるでそう言ってるかのように、笑顔で駆け回っている。

 よし、じゃあ行こうか。

 サラミは初めてだよね。

 そう。今日はクリスマス・イヴだ。

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サラミと僕と ⑨洋食屋さん

 東京の雪は、あっという間に溶ける。

 どんなに降り続いても丸一日よりは降らないし、次の日は必ずと言っていいほど天気になり、強い陽射しを受けて、大抵はその日のうちにみんな溶けてしまう。

 サラミに起こされて町に出ると、昼前なのに、既に雪は大分無くなっていた。

 雪解けの町。

 まるで一気に冬から春になったように、柔らかな陽射しが町中に降り注ぐ。

 いつもの洋食屋の前を通りかかると、奥さんが道路の脇に残った、黒く残った雪を水で流していた。

 

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サラミと僕と ⑧雪遊び

 その日は、空気は凍りついたように冷たく静かで、空には真っ白な雲が一面に広がっていた。

 ちょうど、サラミを小さな庭に出しているときに、空からは白いものが舞い降りてきた。

 初雪。

 もちろん、サラミにとっては初めての雪だ。

 サラミは、空を舞う白いものを不思議そうに眺めて、地面に落ちたものの臭いを嗅いだり、舐めようとしたりしている。

 そのうち、地面のあちこちに雪が溶けずに残り始めると、それらを踏まないように、ぴょん、と飛び跳ねて移動しながら、それでも雪の探索をしていた。

 面白いので、その様子をしばらく眺めてから、僕らは暖かい部屋に入った。

 

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サラミと僕と ⑦居心地の良い場所

 サラミと暮らし初めて、4ヶ月が過ぎた。

 足が太いから、立派な犬になるね、と言われていたけど、実際には足だけが伸びず、胴長短足な「立派な犬」になった。

 先日の一件があってから、外でも飼えるように、僕はサラミと一緒に大家さんやご近所に挨拶に回った。

 どんな反応をされるか不安だったけど、当のサラミと一緒だったせいか、案外反応は良好だった。

 相変わらずサラミは誰彼構わず愛嬌を振り撒いていたので、番犬にはならないね、とか言われながら撫でられたりしていた。

 かくして、小さな庭でもサラミを飼えることになった。

 

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サラミと僕と ⑥ひとりぼっち

 サラミと暮らし始めてから、僕は残業もせず、飲みにも行かないで、速攻で帰宅する生活になった。

 サラミがまだ小さかったこともあったけど、何よりサラミと一緒にいたかった。

 家に帰ると、玄関まで迎えに来たサラミを連れて散歩に出た。

 まだ暑さの残るなか、蝉時雨を聞きながら歩いた夏の日。

 少しずつ日が早くなり、夕暮れまでの空の色の変化を一緒に見上げた夏の終わり。

 少しずつ涼しくなり、色とりどりの花の中を駆け抜けた初秋。

 稲刈りも始まり、風に揺れる黄金色の稲穂の中で過ごした秋。

 紅葉に燃える公園を歩き、木枯らしの吹き始めた並木道を歩いた。

 そうして、いつも一緒にいた。

 そして、いつも一緒に歩いた季節が流れて行くのを眺めていた。

 

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サラミと僕と ⑤しつけ

 サラミは、基本的には頭が良いようで、教えたことは、すぐに覚えた。

 でも、やんちゃなところは変える気がないのか、やりたいと思ったことはやることにしているようだった。

 当然、やんちゃの後は怒られるのだが、一体どこで覚えたのか、まずは愛嬌で許してもらおうとする。

 そんな時は、可愛さに負けそうになるのを堪えてもう一度叱るのだが、そうすると、一旦はスゴスゴと自分のダンボールハウスの中に引き下がる。

 でも、「サラミ」、と呼ぶと、嬉々としてはしゃぎながら飛び出してくる。

 根本的に、サラミはめげることがなく、そして明るかった。

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サラミと僕と ④犬のいる暮らし

 目覚ましよりも早く、僕はサラミのペロペロ攻撃で目が覚めた。

 そうだ。散歩に連れてかなくちゃ。

 外はすでに明るく、早くも夏の暑さが始まりつつあった。

 やたら走りたがるサラミをなだめつつ、僕はあくびをしながら、まだ動き出したばかりの町を歩いた。

 遅めの新聞配達のバイクや、牛乳配達のバイクが通りすぎて行く。

 早出のサラリーマンが小走りに駆けて行く。

 まだ車の少ない通りは、散歩するにはちょうど良かった。

 しかし、すでにじりじりと強い陽射しが町に降り注いでいる。

 今日もまた、暑くなりそうだ。

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